歪んだ月が愛しくて2



未だ閉ざされたドアを見つめて複雑な想いを募らせる。
あの日、あの裏路地から出て来た立夏を見た時から時折感じていたものが徐々に輪郭を露わにしていた。



『今のままだと、アイツ………消えますよ』



……分かってる。

この焦燥感の原因が何なのか。



だが諦めるつもりはない。



(泣いて喚いても逃がしてやれねぇだろうな…)



俺の身勝手な想いが立夏を縛り付けても、雁字搦めにして身動きが取れなくなっても、もう手放せない。



立夏との出会いは俺の心を抉じ開けるのに十分過ぎる衝撃だった。
焦げるような衝動が内側から突き上げる。
色々な防壁を薙ぎ倒して深く深く浸透していく。
初めて会った時は誰にも心を開かず誰であろうと臆さない奴だと思っていたが…。
でも実際の立夏はそうじゃなかった。
何もかも諦めた空気を纏いながら蓋を開ければただのチキンで、喧嘩とは無縁そうな風貌のくせにバカみたいに強くて無駄に強気で負けず嫌いで、そのくせ無意識に自分を卑下するドMで、何より自分のことなんかお構いなしに他人を見捨てられない自己犠牲主義の持ち主。
こんなの誰が予想出来た?
知れば知るほど色んな顔を出して来て、立夏との距離が近付けば近付くほど退屈とは程遠い日常と化していき、気付けば俺の視界にはいつも立夏が映っていた。
そんな立夏に惹かれるのに時間は掛からなかった。
まるで目に見えない何かに絡め取られるかのように自分には無縁だと思っていた欲が際限なく湧き出て来る。

立夏がどんなに足掻こうとも逃す気はない。
だから危険分子を排除することにした。
鏡ノ院だろうと、“鬼”だろうと、血の繋がらない兄弟だろうと何だろうと、言い訳の材料を一つずつ潰して立夏の不安要素を根こそぎ刈り取ってしまえばいい。
それから嫌ってほどの安心感としつこいくらいの甘美な言葉でドロドロに甘やかして、二度とバカな気を起こさないように何度でも言い聞かせてやる。
だがそんなことをしてもきっと立夏は喜ばない。
寧ろ余計なことをするなと怒るだろう。
それでもお前が俺の手を離してどこかへ行くと言うのならお前の弱みに漬け込んででも逃げ道を塞いでしまうまでだ。



ただ珍しく感傷的になったのは、俺の知らない立夏を知る人物が現れたからだろう。


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