歪んだ月が愛しくて2
「はいはい、神代さんね。じゃあ神代さんの疑問に答えてあげるけど、ぶっちゃけオタクらには関係ない話だけどそれでも聞きたいの?」
「関係あるかないかは俺が決める。“当事者の口から直接聞いた方が…”と言っていたがあれはどう言う意味だ?」
「どうもこうも、そのまんまの意味だよ」
「本当の犯人と、偽物に仕立てられた犯人。その両者の口を割らせると言うことか?」
「そうだね。でも俺が尋問するわけじゃないよ。そんなおっかないことしてたら命がいくつあっても足りないからね。……ただその内、否が応でもそんな状況になりそうだなって、そんな気がしただけ」
「確信があるように聞こえたが…」
「俺の勘ってよく当たるからさ」
「………」
「でもそっちからしたらその方が都合良いんじゃない?お互い潰し合ってくれたら街が平和になって治安も良くなるし、アオイちゃんの誤解も解けるわけだしね」
確かに、普通に考えたら厄介者同士が潰し合ってくれればどちらか一方は確実に潰れる。更にもう一方も戦闘による怪我や疲労で一時的な平穏が訪れるかもしれない。
だがそれは普通に考えればの話だ。
白夜叉と“鬼”全体がぶつかればその可能性もあるが、今回の敵はあくまでキョウのみ。
キョウが兵隊を動かしたとしても、その程度では白夜叉を倒すことなど不可能だ。
高屋もそれは分かっているはずだ。
それなのに何もかも分かった上で両者がぶつかることを望んでいる。
……成程な。
ナツが高屋を立夏に近付けさせたくない理由はそう言うことか。
「……お前は、それでいいのか?」
神代会長も高屋がやろうとしていることに気付いたのか、責めるような口調で追及する。
その表情から読み取れたのは「お前は立夏の仲間じゃないのか」と高屋を非難するものだった。
俺も似たようなものか。
誰よりも立夏の信頼を得ていて、誰よりも立夏に大切にされている高屋が、何故あえて立夏を危険な地へ送るようなことをするのか分からなかった。
そんな俺達の視線に気付いた高屋はスッと目を細めて考えを巡らせた後、ケロッといつもの表情に戻ってこう言った。
「いいんじゃない。そうすりゃいい加減アイツも理解するだろうし」
「お前、何をする気だ…?」
「んー…そうだな。まず大前提として俺はシロに直接会って言いたいことがあるんだけど、当の本人が何故か俺のことだけ避けまくってるからあの日以来ずっと会えてないわけ」
「あの日?」
「やだなぁ、神代さんったら惚けちゃって。あの日って言ったら俺が“鬼”にボコボコにされて入院する羽目になったあの日に決まってんじゃん」
「、」
ビクッと、御幸陽嗣の肩が揺れる。
「シロが俺の前に姿を現したのはその日が最後。姉ちゃんが言うには何回か見舞いに来てくれてたっぽいけど、どっかのイケメンに連れ去られて以来パッタリとうちにも寄り付かなくなっちゃってさ…。まるで最初から存在してないみたいに綺麗さっぱりとね」
「………」
どうやら高屋は俺達の知らないところで立夏の行方を捜していたようだ。
まあ、“白夜叉の側近”の二つ名と性格以外は至って平凡な生活を送っている高屋に立夏の行方を捜すのは難しいだろうが。
……ああ、だからか。
「だからナッちゃんに会いたかったんだよね」
高屋がこの場に現れた理由が、今はっきりと分かった。
「正確に言えば、ナッちゃんの雇用主にだけど」
「………」
高屋の目的は、八重樫晋助と接触することか。