歪んだ月が愛しくて2
「余裕ブッこいてんじゃねぇよ。俺じゃアンタを殺せないって?ふざけんな。アンタを殺すなんざヤエのお守りするより簡単なんだよ」
「じゃ、何で今まで、殺さなかったの?」
「あ?」
「俺が、シロの特別だから、でしょう。だから、シロに嫌われたくないから、俺を生かして、くれてたんでしょう。本当は、あの中の誰よりも、俺のこと、殺したいと、思ってたくせにね」
「………」
「大して、強くもないくせに、シロの隣にいるのが、気に入らない、んでしょう?」
「、」
首に回る指が、ぎちりと一層強まった。
「シロに、特別、扱いされてる俺が、羨ましいんでしょう?」
「……黙れ」
「シロって、おれにべったり、だもんね。みんなのごしゅじんさま、なのに、そりゃ妬いちゃうよねぇ」
「マジで黙れよ。本気でその首へし折るぞ?」
「でも、いちばん、きにいらねぇのは、おれ、が、よわいせいで、シロが、いなくなったから、だろう?」
「………」
「だから、おまえは、おれが、ゆるせないん、でしょ…?」
「っ、許せるわけねぇだろう!!」
込み上げる感情を抑え切れず、ナツが悲しげな声を張り上げた。
同時にナツの手が高屋の首から外れ、今度は高屋の胸倉を強引に掴んで上半身を持ち上げ憎悪に満ちた顔を近付けた。
「テメー1人碌に守れねぇ雑魚の分際で何が特別だ!何が側近だ!自惚れんのも大概にしろよ!テメーみたいな雑魚の替わりなんざいくらでもいるんだよ!」
げほっ、げほっ…と、咳込む高屋。
その首には微かに手形のようなものが見える。
「……ブーメランでしょ、それ」
「、」
そんなナツに高屋は追い打ちを掛ける。
「やっぱ殺せなかったね」と呟く口元はゆるりと弧を描き、まるで罵倒されることを望んでいたかの如く自分自身を自嘲していた。
ああ、この男も…。
立夏と同じように罰せられることを望んでいるのか。
大切な者を守れなかった、自分自身を。
「……消えろ。俺の前から今すぐに」
高屋の胸倉から手を離したナツは高屋を視界に入れないように背を向けた。
「ん、分かった。今日のところは一先ず帰るよ」
パンパンッと、高屋は何事もなかったかのように服に付いた汚れを手で払った後、暫くナツの背中を見つめてこう言った。
「でも、これだけは覚えとけ。お前はシロに嫌われたくねぇからアイツのやろうとしてることに協力してんだろうけど、イイコに“待て”してるだけじゃアイツは戻って来ねぇよ。アイツは嘘吐きだからな」
「………」
「ヤエちゃんにも、そう伝えて」
そう言うと高屋はナツの返答を聞く前にナツの横を通り過ぎて入り口の方へと歩き出した。
途中振り返って「それじゃ皆さんお邪魔しました」と晴れやかな笑顔を残して、来た時と同じようにふらっとどこかに消えてしまった。
「………」
「………」
そんな高屋を呆然と見つめる俺達と、先程から表情の見えないナツ。
でも分かる。
そっち側の空気に慣れているせいか、ナツの感情が手に取るように伝わって来る。
怒りと、安堵。
「……だから、嫌いなんだよっ」
そしてその言葉から滲み出る劣等感と嫉妬心に、どこか既視感を覚えてしまった。