歪んだ月が愛しくて2
「頼稀…」
頼稀は殴らなかった。
俺の胸倉を強引に引き寄せただけで悔しそうに唇を噛み締めていた。
「……殴らないの?」
「………」
頼稀は何も言わない。
何も言えないのかもしれない。
反論したいのに飲み込んでます、みたいなもどかしい表情が何とも痛々しかった。
「……酷いこと言ったね」
自覚はある。
でも謝るつもりはなかった。
「義務なんて、そんな言葉使う必要ないと思うよ。何を引き摺ってるのか知らないけどさ、リカだって義務なんて言葉で守られるよりも頼稀の意志で一緒にいて欲しいと思っているはずだよ」
「、」
「俺なら、そう思う」
頼稀の手がゆっくりと俺の胸倉から離れていく。
そのまま自身の頭をドンドンと分厚い本に何度も何度もぶつけていた。
「えっ、ちょ、ちょっと…」
ど、どうしよう…。頼稀が壊れた。
もしかしてこれって俺のせい?
「……何かドンドン音しねぇ?」
「あれって風魔くん?」
「未空様も一緒だけど、どうされたのかな?」
ざわつく声にハッと我に返る。
しまった!ここって図書館じゃん!
バリバリ人いるじゃん!
リカに話聞かれてたらどうしよう!
そんな不安が脳裏に過ぎったため俺は頼稀の手を引いてテラスに出た。
よし、ここなら誰もいないから大丈夫。
そう安堵した時。
「……仕方なく、じゃない」
か細い声が耳に届く。
「仕方ないわけがない」
「………」
頼稀の声が徐々に大きくなる。
「笑って欲しいから、もう二度と傷付いて欲しくないから、だから守りたいと思ったんだっ」
「……うん」
分かってるよ、本当は。
分かっているのに酷い言葉で傷付けたんだ。
「……関係ないって言葉で誤魔化したのは認める。お前の言う通り、最初は立夏のことを義務だから守っていた。でも、今は違うっ。アイツを一目見て、アイツの過去に触れて、俺の意志で守りたいと思った。最悪でもクソ野郎でも何でもいい。俺は…っ」
最悪なのは頼稀じゃない。
「俺は俺の意志で立夏と一緒にいるんだっ!」
俺だ。