幼なじみは新選組でした?!

忘れ去られた記憶

新選組の本拠地である壬生の屯所は、思っていたよりも広く、活気に満ちていた。木の匂いや、剣の切れ味が感じられる空気が、まるでここが時代を超えて存在しているかのような雰囲気を醸し出している。私はその一角に立って、思わず息を呑んだ。

「ようこそ、志村梨花さん。これから新選組で一緒に働いてもらうことになるんだ。」

目の前に立つのは、若い隊士らしき男性で、少し驚いた表情を浮かべながら私を見ていた。彼は新選組の幹部の一員ではないようだが、どこかしっかりとした雰囲気があった。

「紹介が遅れたが、これから雑用係として、みんなのサポートをお願いする。ここではただの雑用でも、みんなを支える大切な役割だよ。」

その言葉に少し気圧されながらも、私はうなずいた。新選組の幹部たちは、会議中か、外での任務に出ているとのこと。それが理由で、私に最初に声をかけてくれたこの男性に、取り敢えず紹介されることになった。

「よろしく頼むな。」

彼は言うと、私に次々と簡単な仕事を教えてくれた。屯所内の掃除や食事の準備、または衣服の手入れなど、全てが慌ただしい日常の中で、必要不可欠なものだと感じる。みんなの剣術や戦の準備が整うのを待ちながら、私はその陰でささやかな役割を果たすことになる。

「ここの生活は決して楽ではないけれど、慣れてくれば何でもないさ。」

その言葉に励まされながら、私は雑用に精を出していた。どこか懐かしい感じがしたが、それが何なのかはわからなかった。ただ、剣の音が響く中で、これから始まる日々が少しずつ私を変えていく予感がした。

夕方、みんなが集まっている幹部会の部屋へと向かうと、先ほどの男性が先に来ていた。

「ごめん、少し待ってくれ。」

「いいえ、大丈夫です。」

しばらくしてから、幹部の面々が会議を終えたのか、次々と戻ってきた。私は自分の目を疑う。そこに立っているのは、昔、沖田総司という名前を耳にしていたあの人物に似ている、青年の姿だったからだ。

しかし、沖田のことを考えていた矢先、私はその人物がまるで私を避けるように、まっすぐに自分の仕事へと向かう姿を見送った。沖田総司…いや、彼が本当に沖田総司なのか、私の頭の中で過去と現在が交錯する。

その彼が見せたのは、冷徹で、感情をほとんど表に出さない顔だった。彼の姿を見て、心の奥底で何かがざわざわと動き出した。しかし、彼の顔はどこか遠くの記憶にしか過ぎないもののようで、私はその瞬間に「再会」の感情を持てなかった。

幹部の一人、近藤勇らしき人物が私に向かって軽くうなずく。

「こちらが今日から働く新しい雑用係、志村梨花さんだ。よろしく頼む。」

「よろしくお願いします。」私はやや緊張しながら一礼をした。

「これから頼む仕事も多いからな、手を抜かずに頼んだぞ。」

その言葉に応えるように、私も返事をした。だが、ふとした瞬間に、目の前の沖田――いや、彼が沖田総司なのかどうかはわからない――の目が、私を一瞥した。その目の奥には何かしらの記憶が眠っているようで、私はその視線に心がざわめくのを感じていた。

「…失礼します。」

沖田はそう言って、素早く部屋を出て行った。残された私は、彼の姿に心の奥で何かが引っかかるのを感じながらも、すぐにはその思いを言葉にできなかった。

新選組の一員としての第一歩が、こんな形で始まった。沖田との再会は、この瞬間から始まるのだろうか。それとも、私の記憶の中で埋もれていた彼の姿は、時間をかけて少しずつ蘇ってくるのだろうか。

その答えは、まだ見えなかった。
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