ビター・ハニー・ビター
こうなったらしっかり公認副業してやろうじゃん!
袖口を捲り無心で手を動かした。床を埋め尽くすのは殆どが書類や本で、たまに服や、アクセサリー。生ゴミが少ないっていうのは有難いことだった。
ゴミ袋、ざっと四つ分。最後の1つを括り、すっきりとした息を吐き出した。
部屋が汚すぎて分からなかったけれど、広いリビングだ。メゾネットタイプだけど、上がベッドルームなのか。
「片付くの、はや」
キッチンの片隅でパソコンと向き合う小鳥遊棗が静かに口を開いた。
「家事はね、効率なの。で、何日溜め込んでるの、これ」
「1週間?」
なんであたしに聞くんだ、知るわけないのに。
行き場のない、いや、出しても仕方の無い心の声を喉の奥に呑み込む。
「逆に一週間前はなんで綺麗だったの?」
居心地が悪くって、慣れない部屋の床をフローリングワイパーで撫でる。なんて無い疑問をぶつけると、小鳥遊棗は「…んー」と唇をうごかすことなく蚊みたいな声を出した。
「…ハウスキーパーみたいなひと、いて」
「ふぅん、彼女と別れたわけじゃないんだ」
「…それは違う」
「で?新しいハウスキーパー頼まないの?」
「自分で家事をしなさいって言われて、してみようと思った」
「だれに言われたの?」
「おかあさん」
「はあ、で、無理だったわけ」
コミュ力は低そうだけど、コミュ障って訳じゃなさそう。動じずに話すし。
逆にあたしが話し掛けて、喜び震えて失神してくれても良かったんだけどね?むしろそうなるかと思ったよ。