ビター・ハニー・ビター
「出来ないことを無理にする必要はないんじゃない?適材適所って言葉があるくらいだし」
酷い有様だったテーブルの上を片し灰皿を救出する。「…適材適所」無気力な声が同じ言葉をなぞるころには、そのテーブルは磨き上がっていた。
「よし、終わり」
なんということでしょう。これぞビフォー・アフター。失礼だけど、誠に勝手ながらこの手の類の男はフィギュアに囲まれて生活してると思ったのに、まさにモデルルームという名が相応しい空間がお目見えする。
すっごく素敵なお部屋だ。どうすれば一週間で汚部屋に変えるのか、ある意味才能では。
それに、そもそもなんでハイグレードな部屋に住めるんだ?
スッキリしたはずなのに、腑に落ちない。
「どーも。…ビール、飲む?」
報酬なのか、小鳥遊棗は冷蔵庫に手をかけるので「のむ」と頷いた。これもまた、無害そうな男に向けた、油断のひとつ。
小鳥遊棗は律儀にビアグラスに注いでくれた。こっくりとしたコーラに近い色味のビールだ。案外センスがいいな。と意外な一面に驚いてみせる。
雲みたいな泡がぷっくりと浮いて、白く曇ったグラスを見れば、こういう晩夏の夜は喉を潤したくなるってもん。
思えば上品に飲んでいたカクテルも半分以上残したし、今日は全く飲んだ気がしなかったな、と小一時間前の出来事を思い出す。
いただきます、と、綺麗になったリビングのソファーでグラスを傾ける。小鳥遊棗は移動が面倒なのか、まだキッチンでパソコンを触っている。
「さっきから何してんの?仕事?」と尋ねれば「そんなとこ」と無気力な返事が聞こえた。
「男はいいよね、仕事だけしてたらいいもん。仕事以外でも努力すんのはいつも女、なんとか磨いて見つけてもらおうと必死」
「ふぅん」
再び、気のない返事が聞こえる。
あたしはこの男に肯定して欲しかったのか、それとも笑い飛ばして貰いたかったのか。