ビター・ハニー・ビター
そういえば近頃思い切り飲んでないし、友人に合コンをセッティングしてもらおう。合コンであれば思い切り飲めないけれど、ちやほやされたいし、憂さ晴らしには丁度いい。
「明日、あたしから専務にはお断りするから、安心してよ」
くい、と顎を傾けて、煽るようにビールを喉に流し込むと「ごちそうさま、じゃあね」大きな息を吐き出して、帰り支度を、と立ち上がった。
意外とアルコールの強いそれだったのか、一瞬だけ、めまいのようなものが襲う。
───瞬きにも満たない隙間だった。
咄嗟に抱き寄せられた、あたしの身体。
真上に来た男の顔。間近で見ると、肌が意外と綺麗だ。それに、なんだかいい匂いがする。タバコの匂いに混ざった、香水?嗅いだことのある、馴染みのあるグリーンノート。
「……まだ、家事のお礼、してない」
お礼、て、なんの事。
表情の欠片すら見せてくれない分厚い眼鏡、伸びた前髪。トン、と油断した心臓が脈打つ。
……は?ときめいた?なんの間違い?
「今の、ビールでしょ、それ」
「あれはただ、飲むか聞いただけ」
「へえ、そう。…で、お礼?」
小鳥遊棗は重そうな眼鏡を慎重に外す。どきり、早鐘を鳴らす心臓。いや、何を変に緊張しているんだ、相手は小鳥遊棗、陰キャの筆頭、影の薄い居るのか居ないのかわからない男。