ビター・ハニー・ビター
「言いたいことは分かるよ、小鳥遊のこと、な?」
話が早い、というよりも無駄が嫌いな専務は、早速話を切り出してくれるので助かる。
「もちろん、それ以外に無いです」
同じ歩幅で、会社までの短い道のりを歩きはじめる。専務は案外すんなりと種明かしを始めた。
「小鳥遊は友人の息子であいつがこんな小さい頃から知ってるんだよ。まあ、あの部屋みて分かったと思うけど、あいつ、生活力がゼロなの、ゼロ。あんなでっけえくせに、1人じゃ生きれねぇの。こりゃやばいと息子の堕落ぶりに危機感を覚えた母親が、荒治療でもいいからって、春からひとり暮らしさせたわけ」
「…てことは、ひとり暮らし歴は四ヶ月目ってところですか」
「そんなとこ。ただ、父親の方が超がつくほど過保護でさぁ?息子からはウザがられてるからって、俺に頼むんだよ、棗の様子を見てくれって。で、俺も忙しいわけじゃん?プライベートの時間をなんで他人の子守りに使わなきゃいけないわけ?ってなるじゃん?」
「で、白羽の矢が立ったのが、あたしって訳ですか」
自分の顔目掛けて指刺せば、パチンと指を鳴らした専務は「そゆこと」と頷く。
いや、どういうことだよ。
自社ビルへたどり着けば、専務は煌びやかなエントランスの脇にある、シックな仕切りへ向かうので自ずとそちらへ歩いていく。
「そういうわけで、たまにでいいからあいつの世話、頼むわ」
専務は煙草を口に咥え、細い煙を吐き出す。
「そうは言うけど、あたしだって忙しいんです。おかげで彼氏と別れたんですよ!?」
ワンテンポ遅れて、華奢な煙草に火を灯し憎まれ口を叩けば「フラれそうだったじゃん」と、さらりとその口は告げるので「は!?」と呆気にとられ、灰を落としかける。