ビター・ハニー・ビター
あたしはとある企業の秘書課で働いている。
最初は社長秘書も希望した。だってうちの社長、どえらいイケメンだもの。いつも良い匂いがするし、良い声もしてるし、秘書課を狙って転職してラッキー!なんて思ってた。
でも、何故か同僚のガードがべらぼうに硬くて、第三秘書まで埋まって空きは暫く出そうにないから、社長秘書は諦めた。
じゃあ副社長は?ってなるけど、副社長はクールで、目付きがヒヤリとしていて怖いし、副社長室なんて、他の部屋と温度差があって寒い。これは感覚的に、だ。残業多いし空気も薄いし、秘書も全員が仕事の鬼でちょっと無理。
それで狙ったのが次点の専務!
専務もイケメンなんだこれが!
専務自身原則定時上がりを決めてるから仕事のメリハリがあって、チームのメンバーも和気藹々としているし、なにより専務って今をときめく人気俳優が身内に居るんだよ!?
親しくなったら芸能人紹介して貰えそうじゃん?…こんな疚しい内情知られたら異動になるだろうから、トップシークレットだ。
それに、社長の周りは高嶺すぎて摘むのも必死だけど、専務の周りは人当たりのいいエリート揃いで有望株多くて、ハイスペ男子多くて最高だったのに…。
最後のこれが本音っていうことも絶対内緒。
「あたし!専務秘書が良いんです!」
バン!と、テーブルを叩きつけ、やっと解凍した頭で反論した。すると、専務は組んだ手の甲に自分の顔を乗せて、口の端を緩やかにあげる。
「秘書の仕事はそのまましてもらうよ。まあ、そのうち、そいつのサポートにたまに回ってもらうかも」
「サポート?だれの?」
「とりあえず、この話はまた今度」
言われて強制的に終了したのが、ラウンド・ワン。つい、数時間前のこと。