悪逆王女は改心したいのに、時戻しの魔法使いが邪魔してきます!?
 日が暮れてから、私はアレンと共に城に戻ることにした。

 慈善事業初日としては、なかなかの収穫だったと思う。メイと仲良くなれたし、メイへのいじめ(アレン曰く、可愛い子への不器用なアプローチ)も止めることができたし。

 帰り道の馬車の中、アレンがからかうように私をみる。

「この子はわたくしの手下に任命しましたのよ!……なぁんて主が宣言したものだから、前途ある少年達がそれはそれは怯えてましたよね。さすがは悪逆王女です」

「でも、他の女の子達はメイを羨ましがってたわ。『お姫さま、あたし達も手下にしてください!』ってお願いされたの、アレンだって見てたでしょう?」

 ムキになって反論すると、アレンが「大人気でしたよね、主」と頬をゆるめた。

 女の子達から羨望の眼差しを向けられ、有頂天になった私は即座に彼女達の頼みを快諾した。
 後は院長以下、男性陣も手下にしてしまえば私が孤児院を掌握する日も近い。どうか見ていてくださいね、天国のお祖父様!

 ……って、我ながら目的がズレてきた気がする。

 気を取り直し、私は大真面目に腕組みして考え込んだ。

「手下を増やす方策は置いといて、まずはバザーの商品について考えないとね。……私の使わなくなった髪飾りとか、小さくなったドレスとかを寄付しちゃだめ?」

「だめ」

 速攻で却下された。まあ確かに、バザーに出すにしては高価すぎるものね。

 頭を抱えていると、アレンがふっと優しげに目を細めた。

「単純な人形程度でしたら、不器用な主でもできると思いますよ。同じ形に切った二枚のフェルト生地を途中まで縫い合わせ、中に詰め物をする。それから残り部分を縫って閉じる。それで完成」

「本当!? それだけでいいの!?」

 私は驚いて目を見開く。

 そういうことなら、帰ったらすぐにフェルトと裁縫道具を用意させないと!

 わくわくして計画を立てる私を、アレンが温かな眼差しで見守ってくれていた。


 ◇


「何ですかそれ。断末魔の悲鳴を上げ苦しんでいる最中の、触覚が生えたバケモノですか」

「違うっ! どこからどう見ても可愛いウサギさんでしょーが! ねえメイッ!?」

「は、はいっ。あたしもバケモノだと思いますっ!」

「…………」

 手下一号に裏切られた。

 翌日、孤児院の一室にて。
 子供達に交ざって人形作りに初挑戦してみたのだが……周囲の評価は散々だった。

 まずは布を裁つ第一段階から四苦八苦。切り直し切り直ししているうちに、一回りずつ小さくなっていくのはなぜなのか。最終的には手の平サイズになってしまった。

 それから針を指に突き刺し、大騒ぎしつつニ枚のウサギ布を縫い合わせる。仕上げに黒い糸で目を、赤い糸でお口を刺繍してみたわけですが。

「うわっ、こえぇ」

「なんですって?」

 ギロリと睨めば、有象無象の男共は悲鳴を上げて逃げていった。早く彼らも手下にせねば。

 とりあえず一つは売り物ができたわけなので、最低限の役割は果たしたと言えるだろう。後ろにアレンとメイを従えて、気分転換に他の子達を見回ることにする。

「メイは何を作るの?」

「あたしはまだここに来たばかりだから、今回は焦らずゆっくりでいいんだよって、院長先生が。だから畑のお世話をがんばってたんですけど……、フェルトのお人形も楽しそうだなぁって」

「あら! じゃあ私の持ってきた布を使うといいわ。メイも好きなものを作ってみて?」

 大喜びで勧めると、メイはぱっと顔を輝かせた。うずうずと後ろを振り返るので、私は笑って彼女の背中を押す。

「行って構わなくてよ、私の可愛い手下さん。私には失礼な下僕が付いてるから大丈夫」

「そうですよ。先輩下僕にお任せください」

 メイはぴょこんと頭を下げると、嬉しげに皆のところへと戻っていった。……さて、と。

「男の子達はどこへ行ったのかしら」

「畑の横に作業場がありましたよ。大工仕事なんかはそこでするみたいですね」

 アレンの言う通り、外の作業場には男の子が集まっていた。
 器用にのこぎりやトンカチを使い、手慣れた様子で背もたれのない小さな椅子を作っている。

「ごきげんよう」

「ヒッ、姫さまっ!」

「悲鳴は上げなくていいから」

 軽くいなし、壁際に立って作業を見物することにした。
 男の子達は居心地悪そうにしていたが、やがて慣れたのか、元気よく声を掛け合いながら椅子作りを再開する。

「あなた達、とても凄いのね。職人顔負けだわ」

 感心して褒めると、男の子達は目に見えて真っ赤になった。

「や、それは褒めすぎだよ……じゃなくて、です。覚えてて損はないからって、院長がいろいろ教えてくれるんだ……です」

 しどろもどろに答えてくれる子の隣で、この中で一番年長の子はぶすっとしていた。確か……昨日、メイを突き飛ばしたリーダー格の子だったか。

 私はつかつかと彼に歩み寄る。

「ごきげんよう。あなたのお名前を伺っていいかしら?」

「……シン」

 仏頂面ながら、きちんと答えてくれた。私はにっこりと微笑む。

「そう。なら、シン。お庭を見て回りたいのだけど、案内をお願いできる?」

「…………」

 シンは物憂げに腰を上げ、使っていた紙ヤスリを他の子に手渡した。そのままものも言わずに歩き出したので、私とアレンもその背中に付いていく。

 作業場から充分に離れたところで、私はシンの隣に並んだ。

「シン。メイ自身に自覚はなさそうなんだけど、あの子はまだまだ体調が優れないみたいなの。元気になるまで、側できちんと見ていてあげてくれる?」

「な、なんでオレに言うんだよ?」

 ぎょっとする彼に、私はきょとんと目を丸くする。

「だって、シンはメイが好きなんでしょう?」

「んなっ!?」

「あら、違った? でも一目惚れだろうって、アレンが」

 ちらと見上げれば、アレンが重々しく頷いた。

「可愛らしい容姿、そして迷いなく悪逆王女の手下になる先見の明。シンが惚れるのも当然かと」

「ほ、惚れてないっ!!」

 真っ赤になってシンがわめき出す。
 地団駄を踏んで、忌々しそうに私を睨みつけた。

「なんだよ、みんなして姫さま姫さまって! 院長も院長だ、バザーなんて面倒くさいこと毎月やらせるし、王女殿下を歓迎して仲良くなれ、とか無茶な命令しやがるしっ。王族だからってペコペコして、バカみたいだっ」

「――それは全て、君達のためだろう」

 突然、アレンがの様子が一変する。
 アイスブルーの底冷えする瞳を向けられ、シンはみるみる青くなった。

「院長は、君達が孤児院を出た先のことを見据えて動いているんだ。バザーに出す商品を作るという名目で、君達の適性を探る。そしてバザーを通じ近隣住民と交流して、顔つなぎをする。高い身分の者と縁ができたなら、全力でその縁を大切にする。――そういうことの一切が、君達が大人になって自活する時に助けとなるからだ」

「なるほど。意外とやり手の院長だったってわけね」

 わざと明るく相槌を打てば、シンは金縛りが解けたように身じろぎした。泣き出しそうな顔で私を見上げるので、私は笑って彼の肩を叩く。

「シンの適性はたくさんありそうね。たとえば王族相手にも噛みつくその度胸、とか」

「あ……っ」

 うつむくシンを見て、アレンが小さく笑う。

「ま、何にせよメイに対する態度は改めることだな。男なら好きな子をいじめるのではなく、己の全てを賭して守るべき。……そう、このわたしをのようにっ!」

 いきなり芝居っ気たっぷりに私の足元に跪いた。
 うやうやしく頭を垂れる男を、私はふんぞり返って見下ろす。

「そうよ、シン。この男は私の熱烈な信者なの」

「一体どういうお姫さまだよ……」

 げんなりと呟き、あきれたように頬をゆるめた。
 二人顔を見合わせ、同時に噴き出す。緑あふれる孤児院の庭に、明るい笑い声が弾けた。
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