今夜0時、輝く桜の木の下で
次の日。キラと紺が公園でだべっていると、二人の間にレジ袋がぬっと差し出された。
顔を上げると、いつの間に来たのか、シローが立っていた。
キラが笑う。
「よ!昨日ぶり」
紺が肩をすくめる。
「今日もサボり?」
シローはいつもの笑顔で頷いた。
「これ買ってきたから食べよ」
レジ袋の中から、スナック菓子やチョコが次々と出てくる。
三人はベンチに腰掛け、それを適当に分けた。
それから、放課後にこの公園に集まることは、すぐに三人の日常になった。
中学二年生の終業式の日も、三人はいつもの場所にいた。
キラが空を見上げて伸びをする。
「しゃっ、明日から春休みー」
紺が顔をしかめた。
「宿題だるいなー」
キラは隣のシローを見る。
「シローの学校、宿題大変そう」
「もう半分くらい終わってるし、そうでもないよ」
キラが目を丸くする。
「え?なにそれどういうこと?」
「ちょっと早く配られたのからやってたから」
紺が呆れたように笑う。
「キラ、そこはさすがに俺らとは違うだろ」
キラは大げさに肩を落とした。
「同い年なのに……偉すぎる」
「宿題してるだけだけどね」
そう言ったあと、シローは少しだけ表情を曇らせた。
「ねぇ、春休みは二人ここ来ない?」
紺が首を縦に振る。
「来ないな」
キラも頷いた。
「うん、家になるよな」
「キラの家?」
「そう。母ちゃんがカフェやっててさ。シローも良かったら今度来てよ」
シローの顔がぱっと明るくなる。
「めっちゃ行きたい。でもそっか……そうだよな」
紺が聞く。
「塾?」
「うん。サボり先がなくなるのはきつい」
キラが首を傾げた。
「塾ってそんなに行かないとダメなの?」
「受験生になるし、親がね……」
紺がふと思い出したように言う。
「てか、今サボってるのって親になんも言われないの?」
シローは少し考えてから答えた。
「んー、宿題は出してるしテストも受けてるから。先生たちも黙ってくれてるって感じかな」
キラが不思議そうに言う。
「塾ってそんなんでいいの?」
シローは肩をすくめた。
「俺の成績が落ちなきゃいいんだよ。大丈夫ですよって親に言えれば、なんの問題もないでしょ」
「そう……なのか」
キラはやっぱりよくわからなかった。
しばらく沈黙が続いたあと、シローがぽつりと言う。
「塾やめるか……」
紺があっさり言った。
「いいんじゃない?」
シローは笑った。
「親に交渉してみるよ。辞めれたら春休みキラの家いけるし」
「がんばれ」
「おう」
三人は軽く拳を合わせた。
シローは、意外なほどあっさり塾を辞めることができた。
親よりも、塾の先生のほうが強く彼を引き止めたらしい。
シローの成績が、塾でも学校でも一番だったからだ。
春休みになると、三人はよくキラの家に集まるようになった。
キラの母親は、自宅の一階で小さなカフェをやっていた。
シローが勉強を教えたおかげで、キラと紺は春休みの前半で宿題を終えることができた。
そのことにキラの母親は大喜びだった。
「シローくん、ほんとありがとう」
それからカフェの空いている席は、いつでも勉強に使っていいことになった。
行くたびにドリンクと軽食までサービスされる。
三人にとって、そこはすっかり居場所になっていた。
そして三人が中学三年生になってしばらくした頃、事件が起こった。
シローが生徒指導室に呼び出されたのだ。
先生の指示で、シローは鞄を持って部屋に入った。
「中身を見せて欲しい」
先生の言葉にシローは頷き、鞄を開いた。
シローは一瞬、状況が理解できなかった。
自分の鞄の中に、身に覚えのないタバコとライターが入っていたのだ。
先生はすぐに校長を呼び、シローに対するヒアリングが行われた。
シローはもちろん、自分のものではないと否定した。
しかし先生たちは、すぐに結論を出すことはできなかった。
次の日、シローが喫煙したという噂が学校中に広まっていた。
冷たい視線に囲まれながら教室へ向かう廊下で、シローは足を止めた。
気になる声が聞こえたのだ。
「シローくんがタバコなんて信じられない」
女子生徒の声だった。
すると別の声が答える。
「鞄に入ってたんだし確定でしょ」
シローと同じ塾に通っていた男子生徒だった。
その言葉を聞いた瞬間、シローの頭の中で何かが弾けた。
気づけば、その男子生徒の胸ぐらを掴んでいた。
「お前、なんで鞄に入ってたって知ってんの」
男子生徒の目に、はっきりとした焦りが浮かんだ。
そのときだった。
「何してる!」
先生の怒鳴り声が廊下に響いた。
駆け寄ってきた教師が、シローを無理やり引き剥がし、そのまま生徒指導室へ連れていった。
事情を聞かれ答えたが、シローの声は先生たちには届かなかった。
同級生に掴みかかった行為が問題視され、シローは三日間の自宅謹慎処分となった。
顔を上げると、いつの間に来たのか、シローが立っていた。
キラが笑う。
「よ!昨日ぶり」
紺が肩をすくめる。
「今日もサボり?」
シローはいつもの笑顔で頷いた。
「これ買ってきたから食べよ」
レジ袋の中から、スナック菓子やチョコが次々と出てくる。
三人はベンチに腰掛け、それを適当に分けた。
それから、放課後にこの公園に集まることは、すぐに三人の日常になった。
中学二年生の終業式の日も、三人はいつもの場所にいた。
キラが空を見上げて伸びをする。
「しゃっ、明日から春休みー」
紺が顔をしかめた。
「宿題だるいなー」
キラは隣のシローを見る。
「シローの学校、宿題大変そう」
「もう半分くらい終わってるし、そうでもないよ」
キラが目を丸くする。
「え?なにそれどういうこと?」
「ちょっと早く配られたのからやってたから」
紺が呆れたように笑う。
「キラ、そこはさすがに俺らとは違うだろ」
キラは大げさに肩を落とした。
「同い年なのに……偉すぎる」
「宿題してるだけだけどね」
そう言ったあと、シローは少しだけ表情を曇らせた。
「ねぇ、春休みは二人ここ来ない?」
紺が首を縦に振る。
「来ないな」
キラも頷いた。
「うん、家になるよな」
「キラの家?」
「そう。母ちゃんがカフェやっててさ。シローも良かったら今度来てよ」
シローの顔がぱっと明るくなる。
「めっちゃ行きたい。でもそっか……そうだよな」
紺が聞く。
「塾?」
「うん。サボり先がなくなるのはきつい」
キラが首を傾げた。
「塾ってそんなに行かないとダメなの?」
「受験生になるし、親がね……」
紺がふと思い出したように言う。
「てか、今サボってるのって親になんも言われないの?」
シローは少し考えてから答えた。
「んー、宿題は出してるしテストも受けてるから。先生たちも黙ってくれてるって感じかな」
キラが不思議そうに言う。
「塾ってそんなんでいいの?」
シローは肩をすくめた。
「俺の成績が落ちなきゃいいんだよ。大丈夫ですよって親に言えれば、なんの問題もないでしょ」
「そう……なのか」
キラはやっぱりよくわからなかった。
しばらく沈黙が続いたあと、シローがぽつりと言う。
「塾やめるか……」
紺があっさり言った。
「いいんじゃない?」
シローは笑った。
「親に交渉してみるよ。辞めれたら春休みキラの家いけるし」
「がんばれ」
「おう」
三人は軽く拳を合わせた。
シローは、意外なほどあっさり塾を辞めることができた。
親よりも、塾の先生のほうが強く彼を引き止めたらしい。
シローの成績が、塾でも学校でも一番だったからだ。
春休みになると、三人はよくキラの家に集まるようになった。
キラの母親は、自宅の一階で小さなカフェをやっていた。
シローが勉強を教えたおかげで、キラと紺は春休みの前半で宿題を終えることができた。
そのことにキラの母親は大喜びだった。
「シローくん、ほんとありがとう」
それからカフェの空いている席は、いつでも勉強に使っていいことになった。
行くたびにドリンクと軽食までサービスされる。
三人にとって、そこはすっかり居場所になっていた。
そして三人が中学三年生になってしばらくした頃、事件が起こった。
シローが生徒指導室に呼び出されたのだ。
先生の指示で、シローは鞄を持って部屋に入った。
「中身を見せて欲しい」
先生の言葉にシローは頷き、鞄を開いた。
シローは一瞬、状況が理解できなかった。
自分の鞄の中に、身に覚えのないタバコとライターが入っていたのだ。
先生はすぐに校長を呼び、シローに対するヒアリングが行われた。
シローはもちろん、自分のものではないと否定した。
しかし先生たちは、すぐに結論を出すことはできなかった。
次の日、シローが喫煙したという噂が学校中に広まっていた。
冷たい視線に囲まれながら教室へ向かう廊下で、シローは足を止めた。
気になる声が聞こえたのだ。
「シローくんがタバコなんて信じられない」
女子生徒の声だった。
すると別の声が答える。
「鞄に入ってたんだし確定でしょ」
シローと同じ塾に通っていた男子生徒だった。
その言葉を聞いた瞬間、シローの頭の中で何かが弾けた。
気づけば、その男子生徒の胸ぐらを掴んでいた。
「お前、なんで鞄に入ってたって知ってんの」
男子生徒の目に、はっきりとした焦りが浮かんだ。
そのときだった。
「何してる!」
先生の怒鳴り声が廊下に響いた。
駆け寄ってきた教師が、シローを無理やり引き剥がし、そのまま生徒指導室へ連れていった。
事情を聞かれ答えたが、シローの声は先生たちには届かなかった。
同級生に掴みかかった行為が問題視され、シローは三日間の自宅謹慎処分となった。