今夜0時、輝く桜の木の下で
学校側は、シローに自主退学を提案した。
噂が生徒や保護者にまで広まってしまった以上、学校としてはそうせざるを得なかったのだ。

シローの親も、それをあっさり受け入れた。

大人たちにとって、事実がどうだったのかはそれほど重要ではなかったのだろう。

これはあくまで憶測だが、シローは成績もよく、教師からの信頼も厚かった。
だからこそ、妬みを買っていたのかもしれない。

進学校では、成績がすべてと言っていい。

シローが以前、塾でノートを失くしたのは試験前だった。

ノートを失くしても、塾をサボっても、ついには塾を辞めても——
シローの成績は変わらなかった。

塾に通い詰めて必死に成績を保っている生徒からすれば、
そんなシローの存在は面白くなかったのかもしれない。

そういえばあの時、シローはノートを机の上に置いたとは言っていなかった。



「シロー、マジで中学やめちゃうの?」
キラは思わず口を開いた。

「うん。自主退学」
シローは肩をすくめて答えた。

「……本当にそれでいいの?」
紺が視線を床に落とす。

「うん。あそこ、あんまり好きじゃなかったし」
シローは俯きながらも淡々と話す。

「先生たちは学校の面子があるしさ。親も……疑惑のある息子のことなんて、どうでもいいみたい」

シローの声から力が抜けた。

「とにかく穏便に済ませたいんだろうね」

「……頭いいのに、くだらない奴もいるんだな」
紺は小さく呟いた。

「ん?」
シローが顔を上げ、ちらりと紺を見る。

「あ、いや。なんでもない。シローはこれからどうすんの?」

紺は視線をそらしたまま答えた。

「とりあえず公立に転校だって。高校のときにまた別の私立を受けろって言われた」

シローは少し肩を落としながら言った。

「なんか納得できねぇ」
キラは両手を腰に置き、苛立ち混じりに呟く。

「本当のことなんて、あの人たちにはどうでもいいんだよ」
シローは軽く笑いながら、遠くを見つめる。

「これ以上抗議しても届かないし、迷惑がられるだけ」

「でも——」

キラの言葉をシローが遮った

「二人はどこの高校行くの?」

「一番偏差値低いとこ……」

紺は俯いたまま答える。

「あ、あそこか」
シローは小さく頷いた。

「……入れるかどうかだけど」

紺は視線を床に落とす。

「それな」
キラも俯いて小さく呟く。

下を向く二人を見て、シローは言った。

「行こうよ」

二人は驚いて顔を上げた。

「三人で」

シローの声は晴れていた。

「二人と同じ高校に行きたい」



「それで、俺と紺とシローは同じ高校に通ってるってわけ」
キラは少し肩をすくめ、笑った。

「なんか、ドラマみたいな話だね」
咲夜は口の前で両手を合わせ、驚いていた。

「本当だよ。俺と紺、シローのおかげでギリギリ合格だったし」
キラは感謝の気持ちを込めて言った。

「マジで感謝してる」

「さすがだね、シローくん」
咲夜はにっこり笑った。

「シローは受験自体は余裕だったけど、親のほうが大変だったみたい」

「シローくんのご両親って厳しいの?話聞いてると、わりと放置っぽい感じもするけど……」
咲夜は首をかしげて尋ねる。

「大学病院の医者らしいよ。しかもかなり優秀な」
キラは説明するように答えた。

「え、すご……」
咲夜は目を見開いた。

「恥ずかしい息子になるなってずっと言われてたらしい、タバコの件もあったしさ」

「うん」
咲夜は静かに頷いた。

「それで、勝手に俺と紺と同じ高校受験して…それがバレて、完全に見放されたって言ってたな」

「そうだったんだ……聞いてからでなんだけど私にこの話して良かったの?」

キラはニッと笑った

「ずっと誰かに自慢したかったんだよね。俺の友達いい奴でしょって」

「そっか」
咲夜は柔らかい笑顔を浮かべた

「学校が学校だからさ、なかなかわかってもらえなくて...でも咲夜さんならちゃんと聞いてくれるって思ったんだ」

「それはとっても光栄だな」

急に思い出したかのようにキラは付け加えた

「あ、佐藤さんもね」

「別にそこ気使わなくていいよ」

「でも、佐藤さんちょっと嬉しそう」

咲夜の言葉に照れたのか、佐藤さんは手早くカレーの食器を片付け始めた

その様子を見たキラと咲夜は顔を見合わせ、小さく吹き出した。

「私たちも片付けようか」

「だね」

そして二人は手を合わせた。

「「ごちそうさまでした」」
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