今夜0時、輝く桜の木の下で
「そういえば佐藤さん、タバコ大丈夫なんですか?」

頬をほんのり赤くした咲夜が、思い出したように声をかけた。

「全然大丈夫なんで、気にしないでください」

「本当ですか? 全然、私のこと放置して行ってもらっていいんですよ?」

「そもそも持ってきてないんで、本当大丈夫です」

「買いに行きます?」

「あの、まじで大丈夫だから」

念を押す佐藤に、咲夜はふふっと笑った。

「ほう。キラくんから、佐藤さん結構吸うって聞いてたんですけどね」

「ひとりだったら、そうかも……」

佐藤は手元のグラスに目を落とした。

「タバコもすっごく若いときからですか?」

「……そーですね」

「みんなと同じですね」

咲夜はどこか納得したように笑った。

「やめられなくなるものなんですか?」

「そんなことないと思うよ。一応、やめてる時期はあったし」

「あら、それはなんでですか?」

「タバコが苦手な人と仲良くなったからかな」

「それで辞められたんですか?」

「……その人と一緒にいることの方が良かっただけっていう…単純なやつです」

佐藤はいつもの調子で答えようとしたが、最後は少しだけ声を落とした。

「でも、また吸うようになったのは……?」

咲夜の問いに、佐藤はすぐには答えなかった。

手元のグラスを見つめたまま、少しの間を置いて口を開く。

「その人、俺の前からいなくなっちゃったんで……」

「……」

咲夜は何も言わなかった。

「吸わない理由がなくなったってだけです」

佐藤は淡々と続けた。まるで、たいしたことではないと自分に言い聞かせるように。

「……それって」

咲夜が何かを言いかける。

けれど、佐藤は小さく息を吐いて、言葉を継いだ。

「仕方のないことだったんですよ……。でも、その人のこと考えたくないなーって思って、気紛らわすためにまた吸い始めたら、今度は本当に辞められなくなったっていう……」

「……そうだったんですね」

咲夜は静かに答えた。

それ以上、理由を尋ねることはしなかった。

「タバコなんて吸わない方がいいっすよ」

佐藤が話を締めくくるように言う。

「吸わないです」

咲夜は柔らかく答えた。
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