ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
 露骨に振り向いて変な声になった。誰がどこから聞いても図星です、みたいな変な声だ。

「あれ。本当になんかあったの? 怒られた?」

「ちち、違います!」

 慌てるのが裏目に出て無駄に心配の色を顔に浮かべる柳瀬部長。本当に誤解だ、安積さんに怒られたなどとんでもない! と、言いかけると被せるように言ってくる。

「えー? なに? 別に俺にだからって遠慮することはないよ? そんな落ち込ませるほどの指導の仕方してるなら問題だし、俺、一応あいつの上司だから」

 生産管理部のトップにあたる柳瀬本部長は立ち位置の割にとてもフランクで気さくな方。そして安積さんに「あいつの~」なんて軽く言えるのはお二人が同期という間柄もあるのだろう。仕事中のチームワークさもそうだが、雑談したりする姿などからもお二人には信頼感と仲の良さが伺えた。

「ほ、本当にそんなんじゃないんです! 怒られたわけではありません! ただっ――」

 言いかけてそこで言葉を飲んだ。当たり前だ、言えるわけがない。

(ただ、安積さんを見つめて見とれていただけなんです~! なんか言えるわけがない!)

「ただ?」

「――た、ただその……」

 思考がぐるぐる、果たして私はどんな顔をしているのか。少なくとも体が熱い、体温が上がっている。とどのつまり、自分の顔も赤面しているのではないか?!

「ただ見てただけか、安積のこと」

 にこっと微笑まれて爆弾発言を落とされた。
< 10 / 248 >

この作品をシェア

pagetop