ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
 震えはいつの間にか止まっていた。

「そんなにお節介な方じゃないんだけどね。安積とは付き合いもあるから……いろいろ知ってる」

「……いろ、いろ?」

「何も……聞かされていないんだろ?」

 それは一体、何のことだろう。知りたい気持ちと知りたくない気持ちが交差する。

「俺の口から話すことでもないから言えないけれど……関係を続けていくなら知っておくべきことだと思う。でもそれを聞いて、君が受け止められるかわからない。だから……」

 だから、そう言ってファイルを差し出される。それを静かに受け取る私。沈黙が走る。

「好きになってくれない相手を想い続けるのは、あまり応援できないね」

 柳瀬部長はそれだけ言って私の横をすり抜けて部屋を出て行った。パタンと静かに閉じられた扉の音が胸に響いた。

 涙は出ていない、でも――泣きそうだった。
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