ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
 期待をする自分がどこかにいる。たまに見せられる安積さんの切なそうな表情が胸の奥で引っ掛かりはするものの、私は改めて覚悟を決めたのだ。

 思い続ける気持ち、私が好きだとブレずにいたいから。

 一緒にいるほど諦める選択肢が持てない。それが安積さんを苦しめることだと知っていても――我儘が止められない。

 それからすぐだ。

 仕事のトラブルで安積さんが中国に駆り出されることになってオフィス内は少しざわついた。

 そして、漏れ始める――転属の話。


「え? 安積さんってここ離れるの?」

 カフェエリアでチームのひとりがそんな言葉を漏らしていてピクリと反応してしまう。

「中国からのトラブルは結構多いからなぁ。やっぱり現地管理を強化するためにも立上げが速まるって」

「へぇ、そうか……てかそうなったらうちのチーム回るわけ?」

「ううん……しばらくは本部長が兼任かな……」

 噂と憶測が飛び交う。オフィス内はざわつき始めて落ち着かなくなってきた。

 それは私の心も。

(中国への出発が速まるかもしれない? それなら約束の三カ月は……)

 見たくない終わりが予定よりも早く見えだしてきて私の心は不安と焦りで搔き乱されて、安積さんと会えない日々が続いたのだ。
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