ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
 そのあともただ幸せな時間。飲みやすいシャンパンを買っておいてくれた安積さんと美味しいご飯と一緒に飲んでほろ酔い。まったり流れる時間が狂おしいほど愛しくて。

 好きな人と過ごせる時間の尊さを知る。楽しい時間はあっという間、それは本当だ。気づくと夜は更けていく。

「泊っていきなよ」

 安積さんがそんな言葉を言うわけがない。

「泊りたいです」

 私がそれを言えるわけもない。

 私たちは恋人だけれど、本物の恋人同士じゃないのだから。

「今日は本当にありがとうございました。すごい思い出ができました」

「……うん」

 そういう安積さんの表情は切なげだ。その表情を見て思うのだ。

(そんな風に切ない顔をしないで……思い出が欲しい、そう言ったのは私なんだから……)


 これは――私の我儘なのだから。


「送るよ」

 安積さんがそう言う。

「ありがとうございます」

 それに私もお礼を言う。

 私の二十五歳の誕生日はそんな風にして終わった。
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