ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
 望んだことだった。
 
 好きの気持ちを主張して一緒にいることだけを望んだ。そこに安積さんの本当の気持ちまで汲めるわけもなく。一緒にいることで積み重ねた時間だったのに、結局安積さんにとっては、やっぱり受け止められない人間だとただ安積さんを責めてしまっただけみたいになった。

(最低だよ……)

 優しさに甘えたのは私だ。
 私が甘えただけなのに……また安積さん自身を責めさせることをしてしまったのだ。

「四宮さん」

 名前を呼ばれハッとして、手に取りかけたコーヒーを思わず取りこぼす。

「きゃっ!」

「危ない!」

 湯気立つコーヒーが床に落ちてフロアに茶色の水たまりを作ってしまった。

「大丈夫?! 火傷は?!」

「すみません、床に……柳瀬部長の足にかかってないですか?!」

「俺のことはいい! 手は?!」

 グイッと手を掴まれて声を荒げられた。手にかかったが熱さよりもやってしまったことの方に体がカッとなってテンパってしまう。だからさほど痛みや熱さの感覚はないのだが。

「だ、大丈夫です……それより床が……」

 後始末の方が気になってそれどころでもない。足元ばかり気にする私に叱咤するような声で言われてしまう。
 
「それこそどうでもいい! しっかり手にかかってる、冷やさないと」

 そのまま手を引かれてカフェブース奥に連れていかれた。
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