ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
 この傷が塞がったら……楽になれるのかな。

 自分が何を望んでいるのか、どうありたいのかわからなくなる。

「ひっ……ぅっ……」

「泣けるときは泣いたほうがいいね。泣きたくても泣けない方がずっと辛い」

 そんな優しい言葉はやめてほしい。涙が止まらなくなるから。

「泣くのを我慢して泣けないことに慣れたら、いつ泣けばいいのかわからなくなる。泣くのは弱さの表れなんかじゃないからね」

「……安積さんは……」

「え?」
 
 安積さんは泣けたのだろうか。その時、恋人を支えてやれなかったと離れた時。

 ずっとそばにいて救いたかった恋人と離れることになったその時に。

 言葉に出来なかった私の心の中でつぶやく言葉を柳瀬部長は感じて汲み取ってくれて――言った。


「……泣けてないだろうな。泣きたいくらい辛かっただろうけど」
 

 もしその時に私が安積さんのそばにいてあげられたら……すぐに抱きしめてあげるのに。

 過ぎてきた時間が、重ね合うことが出来なかった時間が……今はただ切ない。
 
 私は過去も、今でさえ安積さんを抱きしめてあげることも出来ないんだ。
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