ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
 忘れたくないけれど、忘れないといけない。そうしないとお互いが前に進めないでしょう?

「これは……私の我儘から始まったことだから。安積さんが抱えて覚えていてくれる必要なんかないんです。負担にしてほしくない、傷つけたとまた背負わせたくない。だって、私はなにも傷ついてなんかいないからっ……」

 傷ついたのならそれは私の勝手な話だ。私が勝手に傷ついた、それだけのことなのだ。

「思い出にする方が辛いから……好きな人が悲しい思いを抱えているのは辛い。だからっ……」

 思い続ける辛さを安積さんが誰よりも知っているのだ。

 ずっと抱えて胸の中で重くのしかかる気持ちをこれ以上重ねず、ひとつでも解放してほしい。それが私に出来ることだと思うから。


 あなたはなにも悪くない。思い出はすべて抱えなくてもいい。だから――忘れます。


「ありがとうございました。一緒にいれて時間を過ごさせてもらえて……私は幸せでした」

 一緒にいれたことが何よりも幸せだった。
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