ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
 私は嘘ばかりだ。安積さんに嘘ばかりをついて、どうしようもない。
 
「本当は、忘れたくないです、忘れたくなんかないっ……」

 堪えきれない涙と一緒に気持ちを吐露する私に柳瀬部長は厳しい声で言ってくる。
 
「気持ちを伝えても受け止めてくれない男のことなんか忘れた方がいい。あいつは君を受け止める勇気なんかないんだ。訴えるような君の気持ちを何度踏みにじる。何度踏みにじられたら納得できるんだ」

「私は……」

「好きだからいいんだ? それは違う。好きだったら泣かさないんだよ」

(え……)

 一瞬何が起きたのか分からなくて目の前を疑ってしまう。勘違いじゃなかったら、錯覚でなければ……柳瀬部長に抱きしめられている?

「や、なせ……部長?」

 包まれる熱、冷えて震える身体をぎゅっと抱きしめられたら鼻にかすめられる香りに余計涙が滲んだ。

(安積さん……)
 
 今私を抱きしめてくれる人は、安積さんじゃない。それが知らないタバコの香りで実感するのだ。私はこの香りを知らない、この香りに包まれたいわけじゃない、なのに――。

 拒めない。

 拒みたいのに拒めない、知らないタバコの香りが私の胸を締め付けていくだけで……。

「ひ、うっ……」

「泣かせたくない……好きならそう思う。そう思ったら抱きしめる」

「ぅう……っ」

「抱きしめられてたらいいんだ……俺が抱きしめてあげるよ」

 優しい声と熱に抱かれたらただ涙がこぼれるだけで、ボロボロになった私は柳瀬部長の腕の中でまた泣いてしまった。
 
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