ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
 納期トラブルが起きてオフィス内はバタバタしていた。

 届くはずの商品が届かなくて発注先や取引先への連絡が鳴りやまないなか各自がフォローに回って時間だけが溶けていく。落ち着きだした頃にはもう二十時を回っていた。

 気づくとオフィス内は私とチームの後輩だけで。


「とりあえず落ち着いたね。もうこんな時間だし先にあがっていいよ?」

「え、でも……」

「私も最後に確認だけしたらもう帰るから。お疲れ様」

「ではお言葉に甘えて……失礼しまーす」

 軽く伸びをして後輩は嬉しそうに帰宅した。

 昔は私だってこんな風に先輩に甘えて先に帰らせてもらったことがある。私も後輩にそんなことをして返せるときが来たのかと感慨深い気持ちになりながら最後の確認を行っていた。

 シンッとしたオフィス内。安積さんはもちろんトラブル対応で午後からずっと席を外していた。今日はもう戻ってこないかもしれないな、そんなことを思っていたら扉が開いた。

 カチャリ、とノブが開く音に反応した行動が期待を滲ませた証拠だ。まさか? そんな思いで顔を上げた私はハッとする。


「あれ、ひとり?」

「柳瀬部長……」
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