ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
「お疲れ様。今日は大変だったな、対応ご苦労様」

「いえ、柳瀬部長もお疲れ様です」

「あーしんど。地震で輸送インフラは仕方ないじゃんなー。予測できることじゃないのに……上は文句言うだけで楽だよな」

 柳瀬部長が人気があるのはきっとこういうところ。誰もが思う文句や不満をさらっとこぼしてくれる。上に立つ人が口を噤まないといけないようなことを前になって言ってくれると救われるものだ。

「最近地震多いですもんね……夕方ここも揺れましたし」

「え? 嘘」

「震度三でしたよ?」

 それでもみんな今日はバタバタしていたから気づけなかったのかもしれない。

「地震大国だからなぁ……南海トラフも言われてるし怖いよね」

「本当に」

 そんな雑談も気さくにしてくれるのもコミュ力の高さだ。

「柳瀬部長はまだお仕事ですか?」

「うーん……これから常務とデート」

 可愛い言葉とは裏腹にとても嫌そうな表情に笑ってしまう。

「ふふ。会議室でデートですか?」

「恐ろしい密室コースだよね?」

「お疲れ様です」

「四宮さんもほどほどにして帰るように。今日はまた地震もくるかもしれないしね」

 そんな物騒なセリフを吐いて柳瀬部長は資料片手にオフィスを出て行ってしまった。私はまたひとり、室内に残されて周りは静寂に包まれる。

「確かに……地震また来るかもしれないよね」

 天災はいつどこで襲ってくるかはわからない。地震が起きたからこそやたら意識してしまったら怖くなってきていそいそと確認を済ませてパソコンを切った。
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