カラオケだけが楽しみだった私が、仕事にも恋にも本気になるまで
戦略的ペア
「今年の歌魂フェスティバル、デュエット部門があるんだって!」
福田麻衣子がカラオケの画面に表示された告知を見つけて、声を弾ませた。
「うちのサークルってさ、地区大会の優勝者と3位入賞者がいるわけじゃない? つまり、美織ちゃんと青海さん。ペア組んだら、グランプリ間違いなしよ!」
――って、ちょっと待って。勝手に決めないでよ……。
「いいね、それ。美織ちゃん、去年はグランプリ大会で審査員特別賞だったんだし。今年はデュエットでリベンジだ!」
園田淳が調子よく相づちを打つ。
「リベンジって……別に、負けたと思ってないんだけど」
美織は苦笑いしながらも、どう返せばいいのか戸惑っていた。
「青海さんも、いいでしょ?」
麻衣子がさらに畳みかけるように言った。
「えっと……私、まだ返事してないんだけど」
そう口にするが、すでに周囲は盛り上がってしまっている。
「このサークルの名誉のために、ね? ねっ、美織ちゃん」
麻衣子の瞳がキラリと光る。
――サークルの名誉って、そんな大層な話だったっけ?
そう思いながら周りを見渡すと、美織と青海響生以外のメンバーは、すっかり「決定事項」として盛り上がってしまっていた。今さら否とは言いづらい空気が、部屋を包んでいる。
青海響生。昨年の地区大会で3位入賞、男性ではトップの成績だ。
数字だけ見れば、地区の頂点同士のペア。けれど、デュエットは一人で歌うのと違う。うまく噛み合う保証なんて、どこにもない。
「やりますか」
青海が静かに口を開いた。
「……あくまで、優勝を狙うためのペア、よね?」
美織は念を押すように言う。
「もちろん。それだけの話です」
その言葉に、ふたりの間に一瞬の沈黙が落ちた。
――これはただの“戦略的なデュエット”。
心にそう言い聞かせながらも、美織の胸の奥に、小さなざわめきが生まれていた。
福田麻衣子がカラオケの画面に表示された告知を見つけて、声を弾ませた。
「うちのサークルってさ、地区大会の優勝者と3位入賞者がいるわけじゃない? つまり、美織ちゃんと青海さん。ペア組んだら、グランプリ間違いなしよ!」
――って、ちょっと待って。勝手に決めないでよ……。
「いいね、それ。美織ちゃん、去年はグランプリ大会で審査員特別賞だったんだし。今年はデュエットでリベンジだ!」
園田淳が調子よく相づちを打つ。
「リベンジって……別に、負けたと思ってないんだけど」
美織は苦笑いしながらも、どう返せばいいのか戸惑っていた。
「青海さんも、いいでしょ?」
麻衣子がさらに畳みかけるように言った。
「えっと……私、まだ返事してないんだけど」
そう口にするが、すでに周囲は盛り上がってしまっている。
「このサークルの名誉のために、ね? ねっ、美織ちゃん」
麻衣子の瞳がキラリと光る。
――サークルの名誉って、そんな大層な話だったっけ?
そう思いながら周りを見渡すと、美織と青海響生以外のメンバーは、すっかり「決定事項」として盛り上がってしまっていた。今さら否とは言いづらい空気が、部屋を包んでいる。
青海響生。昨年の地区大会で3位入賞、男性ではトップの成績だ。
数字だけ見れば、地区の頂点同士のペア。けれど、デュエットは一人で歌うのと違う。うまく噛み合う保証なんて、どこにもない。
「やりますか」
青海が静かに口を開いた。
「……あくまで、優勝を狙うためのペア、よね?」
美織は念を押すように言う。
「もちろん。それだけの話です」
その言葉に、ふたりの間に一瞬の沈黙が落ちた。
――これはただの“戦略的なデュエット”。
心にそう言い聞かせながらも、美織の胸の奥に、小さなざわめきが生まれていた。