あの日の第二ボタン
優人は大学の友達とカラオケに来ていた。

「ひろとはもう二十歳になってるでしょ?アルコール飲まないの?」

友達が優人に尋ねる。

「俺は、あんまり飲まないかな……」

優人はそう言うと、リモコンを持ち曲を予約する。

「俺はもう全部忘れたいから飲みまくるわ!」

友達は最近彼女と別れ、傷心していて失恋ソングを練唱していた。
懐かしの失恋ソングを聴いた優人はふと窓の外を眺めた。
クリスマスを目前に控えた東京には雪がちらついていた。

「……ゆいちゃん……今頃何してるんかな……」

マイクを持つ手がわずかに震える。
歌詞の一つひとつが、胸を強く突き刺す。
優人は歌いながら目に涙を浮かべていた。


「こんばんは。店内で過ごされますか?」

優人はカラオケの余韻に浸りながらもバイトに勤しんでいた。
休憩中、窓際の席で高校生が参考書を開いて勉強をしていた。

優人は机の上に開かれた参考書に目をやる。

「……うちの受験生かな……」

ふと、心の奥から声が漏れる。

「……大学生って思ったより寂しいよ……」

優人が受験生の時に抱いていたキラキラした大学生像は遥か彼方へ消え去っていた。


十二月の東京の夕方は、イルミネーションに彩られ、どこもかしこもクリスマスムードだった。

悠依は受験の下見を終え、大学の近くのカフェに入った。
東京の空気はどこかキラキラしていて、街のざわめきさえも特別に感じていた。

「ちょっとだけ、勉強してから帰ろう。」

悠依は窓際の席に座り、バッグから参考書を取り出す。
窓の外では通りを行き交う人々の白い吐息がたなびいていた。

悠依はその景色に一瞬見惚れた後、参考書に目を落とし、静かにページをめくる。
遠くの席では休憩中の店員が悠依の方を見て感慨にふけっていた。
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