あの日の第二ボタン

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優人は三年生になり、慣れた講義室で授業に出席していた。
教授が授業の進め方のガイダンスをしている。
三年目ということもあり、優人は慣れたものだった。

「それじゃあ、最初の授業ってことで、皆さんに自己紹介をしていただきます。ですが、昨今は個人情報がなんだのって言いますので、本名は言わないでくださいね。」

教授がそう言うとマイクを学生に渡す。
学生が次々に自己紹介をし、ついに優人の番が回ってきた。

「経済学部経済学科の三年生です。部活やサークルには所属してません。自分にはヒロポタモスというあだ名があります。せひそう呼んでください。」

講義室では大きな笑いが起こる。
優人は恥ずかしくて人差し指で耳たぶを掻いた。
最初の自己紹介でスベらなくて安堵した。

「おそらくそのあだ名は、ヒポポタモスつまり、カバの英語をモジったものですね。皆さん、カバって見た目から豚や牛に近い動物と思うかもしれませんが、実は遺伝子的には鯨やイルカに最も近い陸上動物なんですよ。しかも水中で寝ることもできるんです。あと、口の開きは最大で150度なんです。すごく顎が……」

教授は興奮気味に雑学を流暢に紹介するが、半分の学生は全く話を聞いていなかった。

授業が終わると優人は学食に誘われ足早に講義室を去る。
東京では破格の500円で昼食が食べられるため出遅れると次の授業に間に合わなくなってしまう。

「渾身のあだ名ネタ、めっちゃウケてたね!」

友達が興奮気味に言う。

「やめろって。それ絶対バカにしてんだろ!」

優人はからかわれて恥ずかしくなった。

「そういう面白い人ってモテるんだよなぁ……」

友達は悪い笑顔で独り言のように言う。

「バカにしかしてない……」

優人はため息をついた。
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