あの日の第二ボタン
「だ、大丈夫ですか?」

悠依が声をかけると優人はひょこっと起き上がり人差し指で耳たぶを掻き笑いながら言った。

「全然、ダイジョーブっす。それより、怪我はない?」

いかなる時も紳士たれと思い優人は悠依を心配する。

「それはこっちのセリフだろぉ。大丈夫か宮田!」

いつの間にか柴橋が来ていた。
優人は恥ずかしさが募り赤面する。
太陽も負けじと意地を張るように陽射しを強めた。

悠依は今までは完璧で抜かりないと思っていた優人のおっちょこちょいな一面を目にし、意外と不器用なところもあるのだと知って、より一層惹かれていった。
そんな悠依の心中を知ることなく、優人は苦い出来事としてその日の当番を終えた。


テスト明けの木曜日。
二週間ぶりのボール当番に、悠依は心を弾ませた。
昼休みになり、体育倉庫には人影があった。
悠依は体育倉庫に人影を見るなり小走りで向かったが、その人影が優人ではなく柴橋であることに気づくと分かりやすくがっかりする。

「なぁに、俺を見てがっかりしてんだぁ。そんなに残念だったか?」

柴橋は冗談まじりに言う。

「い、いや、全然そんなことないです。ちょっと、走って、疲れただけです。」

悠依はわざと息を切らしながら言った。


しばらく経つと、優人が到着した。
柴橋は興奮気味で優人に話しかける。

「おぉ、宮田!今回も定期、学年一位だったんだって?英語のおかっちは『宮田君に百点取られて悔しいです!』って言ってたぞ!やったな!長川高校も狙えるかもな。」

優人は誇らしげに頷く。
悠依は「長川高校」と聞いてぎくっとする。
悠依は結果が返された時のことを思い出す。

青緑の硬い紙を岡から受け取る。
個人的にはテスト勉強の成果を存分に発揮できたと感じていた。
自席に戻り、緊張しながら二つに織り込まれた紙を開く。
右側に順位が書いてあった。
一学年150人中、79位だった。
悠依は愕然とした。あんなに勉強したのに……
(私なんて、あんなに頑張ったのに79位……半分より下だよ……)と心の中で呟く。
先週は優人の不器用さを知って親近感が湧いていたが、今は距離を感じてしまった。

「……先生、ちょっとお腹が痛いので、トイレ行ってきます……」

悠依は居心地が悪くなり柴橋に告げると逃げるようにその場を去る。
柴橋と優人は悠依に違和感を感じた。
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