【完結】悲劇の継母が幸せになるまで
初めての場所、初めての空気……近づいていく死。
幼い頃から今までずっと苦しんできた。
死んだ方が楽になれると思っていたのにヴァネッサは死ぬのが怖い。
(体はバラバラに引き裂かれてしまうの? 実験って何をするの? 毒で苦しんで……? あそこで暮らすよりもつらいのだとしたら、怖い……わたしはっ)
馬車が停まり、投げ捨てられるようにシュリーズ公爵邸の前へ。
御者はまるで汚いようなものを見るようにヴァネッサに視線を送り、傘だけを放り投げたまま何も言わずに去っていく。
ヴァネッサが顔を上げると大きな門が歪んで見えた。
その奥ティンナール伯爵家よりもずっと立派な屋敷は圧迫感があり、ヴァネッサにとっては恐ろしく思えた。
その場から動けずにいたヴァネッサは水たまりに座り込む。
次第に体は冷えていく。
なんとか気持ちを落ち着かせた。
立ち上がり、屋敷が濡れてしまうから傘をささなければと思っていた時だった。
燕尾服を着ていた初老の男性と白衣を着た男性がこちらに近づくたびにヴァネッサは恐怖に苛まれる。
一歩後ろに下がり叫ぼうと口を開くが咳で阻まれてしまう。
「……ゴホッ、ごほ」
「──大丈夫か!?」
シルバーグレーの髪、男性がこちらに近づいてくる。
赤い目と目が合った瞬間、ヴァネッサはパニックに陥り近くにあった傘の端を自らの首に突き刺そうと振り上げたのだった。