【完結】悲劇の継母が幸せになるまで
だが、彼はヴァネッサを妻として扱わないと言った。
『君と形式上は結婚してはいるが……そのように思わなくていい』
最初に言われた言葉はよく覚えている。


「ですが形式上は結婚しているけれど、そう思わなくていいとおっしゃったではありませんか!」

「それは君があんな状態だったからだろう? 俺は妻として扱わないとは言っていない。今はそんなことを気にしている場合ではないという意味で言ったんだ」

「……!」

「勘違いさせたのなら申し訳ないが、気を遣わせたくはなかった」


セリーナの『誤解されやすい』『口下手』だと言って意味が初めて理解できたような気がした。
それに妻として否定されたわけではないと知り、ヴァネッサはとても嬉しかった。


「それに君がやりたがっている掃除や洗濯は侍女たちの仕事だ。これからは公爵夫人として、貴族として振る舞わなければならないだろう?」

「…………!」

「ヴァネッサ……?」


ヴァネッサは戸惑いを隠せない。
ギルベルトにこんなふうに言われてしまえば恋愛経験がない前世の記憶と人に優しくされたことがないことも相俟って、意識してしまうではないか。

(こんなっ、すぐに好きになっちゃだめよ……!)

顔を真っ赤にしたヴァネッサにギルベルトも気まずそうに視線を逸らす。

(夢にまでみた結婚、旦那様がギルベルト様だなんて……!)

ヴァネッサが心の中で興奮していると、ここで重大なことに気づく。

(わたしは……ギルベルト様に相応しくないんじゃないかしら)

掃除と洗濯などは、毎日といっていいほどやっていた。
物置きで息を殺して暮らしていたヴァネッサはかろうじて貴族の令嬢としての知識はあるがまったくわからない。


「ギルベルト様、申し訳ありません」

「……?」

「わたしには公爵夫人は相応しくありません。何も……知らないのです」


これではギルベルトの役に立てないとヴァネッサは落ち込んでしまう。
すると彼は励ますように優しくヴァネッサの手を取った。
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