【完結】悲劇の継母が幸せになるまで
「ヴァネッサの分も紅茶を用意してちょうだい!」
アンリエッタがヴァネッサと呼んだことでセリーナの眉がピクリと動く。
「アンリエッタお嬢様、ヴァネッサ様は……」
「待って、セリーナ」
「ぁ……!」
アンリエッタもセリーナが何を言いたいか気がついたようだ。
彼女は口元を押さえて申し訳なさそうにしている。
しかしそれに気がついたヴァネッサがセリーナを制するように首を横に振る。
今のヴァネッサを無理に母親だとは呼ばせたくはない。
というよりは、こんな状況で母親扱いされてもヴァネッサも困ってしまう。
今まで使用人扱いされていたのだ。
こうして公爵夫人としての対応にも慣れてきたのに、次々と新しいことが増えても困ってしまう。
それよりは友人として距離を近づいていく方がいいだろう。
「ヴァネッサでいいわ。アンリエッタ、わたしと友だちになってくれる?」
「……いいの?」
「もちろんよ!」
ヴァネッサは大きく頷いた。
それから侍女たちが用意してくれた紅茶がヴァネッサの前に置かれる。
アンリエッタはとても嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
ソワソワしているアンリエッタを見ていると、彼女は唇を尖らせて「何よ……!」と言った。
少し離れた場所でセリーナやレイ、アンリエッタ付き侍女たちが二人を見守っている。