罪深く、私を奪って。
朝の挨拶をするように、彼の足元にすりよって甘えた声で鳴いた。
「シロ、腹減ったか?」
足元で甘える彼女に微笑みながらコーヒーを用意してくれるその姿は、会社で女子社員の視線を集めるクールな表情よりも、もっとずっと魅力的で。
寝起きの心臓には絶対よくない。
目をそらすようにリビングの時計を見ると、時間はもうお昼に近かった。
こんなに寝ちゃってたんだ。
人のベッドを占領して。
どこまでも厚かましい自分に自己嫌悪だ。
石井さんが入れてくれたコーヒーを飲みながら、朝食にありついたシロの後姿をぼんやりと眺めていると、
「これから、どうする?」
ぽつりと低い声で聞かれた。
その問いかけによみがえる昨夜の恐怖。
私はその記憶を振り払うようにぎゅっと手のひらを握って、笑顔を作った。
「帰ります。アパートに」
「でも、たぶんまたあいつ来ると思うけど?」
「大丈夫です。いざとなったら荷物まとめて実家に逃げるんで。少し遠いけど、早起きすれば会社に通えない距離じゃないし」
「……そっか」
私がそう言うと、石井さんは携帯電話を持って立ち上がった。
「悪い、ちょっと電話してくる」
私には聞かれたくない内容なんだろう。
ベッドルームの方へと姿を消した。
きっと、亜紀さんに電話してるんだろうな。
今日は土曜日だし、もしかしたら約束があったのかもしれない。
なにやってるんだ、私。
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