罪深く、私を奪って。
夜中に電話で助けに来てもらって、部屋に泊めてもらって。
迷惑かけてばっかりだ。
「……もう、やだ」
ぽつりとつぶやいた私の足元で、朝食を食べ終えたシロが「ニャア」と短く鳴いた。

「本当に、アパートに戻っても平気か? 落ち着くまで俺の部屋にいてもいいけど」
石井さんは車の助手席に乗り込んだ私に向かって、確認するようにそう聞く。
「大丈夫です。本当に」
だって、これ以上石井さんに甘えられない。
いつもは冷たいくせに、なんで今日はこんなに優しいんだろう。
何も言わずにアパートに送って欲しいのに。
もっといてもいいなんて言われたら、甘えたくなるじゃない。
シートベルトを締めた私の足元を見て、石井さんは何かに気づいたように口を開いた。
「それってこの間、営業部で貰うとか貰わないとか言ってたやつ?」
「え?」
私も自分の足元を見ると、素足に履いていたのはスミレ色のビーズ刺繍のミュール。
ああ、そっか。
石井さんあの時、営業部で話しているのを見ていたんだっけ。
「そうです。あの時は遠慮したんですけど、永瀬さんが後から持ってきてくれて……」
「ふーん」
一度は断ったのに、しっかり後から貰うなんて図々しい女だと思われたかな。
彼の冷たい表情に、少しだけ胸が痛む。
「いっこ聞いてもいい?」
「はい……?」
改まって聞くなんてなんだろう。
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