罪深く、私を奪って。
きっと沼田さんは、すごく悩みながらここへ来たんだ。
「気持ち悪いなんて……。そんな事ないです。何か用事があったんですよね?」
「用事ってほどじゃないんですけど」
私の言葉にほっとしたように、少しだけその拳がゆるむ。
「一人で家に帰って冷静になったら、言い忘れたことがあったなと思って。迷惑だろうけど、どうしても伝えておきたいなと……」
伝えたい事ってなんだろう。
そう思って彼の次の言葉を待っていると、少し緊張してるのか、落ち着きなく眼鏡を押し上げながらゆっくりと話し始めた。
「ずっと、野村さんに憧れてました。この会社に入社する前から」
入社する前から?
私が首を傾げると、沼田さんは小さく笑った。
「覚えてないですよね。入社試験の時、野村さんと一緒だったんですよ。あ、あと石井もいたかな、確か」
入社試験……。
確か、まるで季節がずれ込んだみたいにやけに暑い日だった。
ぼんやりと思いだす2年前の事。
着なれないスーツを身に着けて、落ち着かない気持ちで面接の順番を待ってた事。
「……覚えてます。すごく暑かったですよね」
記憶を思い起こしながらそう言うと、
「そう、すごく暑い日でしたよね」
覚えていた私にほっとしたように、目の前の沼田さんの拳が緩んだ。
「面接の待合室もすごく暑くって、着なれないスーツに締めたネクタイがものすごく息苦しくて」
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