罪深く、私を奪って。
面倒くさいといいつつ、幸せそうな顔をする亜紀さんに、私はどんな表情をしていたんだろう。
おめでとうと言えたのはいいけど、ちゃんと笑えていただろうか。

そうか、石井さんと亜紀さん正式に婚約するんだ……。
足元の地面が、ぐにゃりと歪んだような気がした。
二人が付き合ってたのなんて、最初から知っていたのに。
わかってて、石井さんを好きになったのに……。
エレベーターに向かいながら、自然とため息が出る。
最初から私に望みがない事なんてわかってた。
それでも勝手に好きになってた。
石井さんは亜紀さんのものなんだから。
二人は結婚するんだから。
人の物を欲しがっちゃいけません。
そんなの幼い子供にだってわかる当然の事。
どんなに好きになったって、石井さんは亜紀さんのもの。
だから、諦めるしかないんだ。
そう何度も自分に言い聞かせたけれど、勝手に出てくるため息を止めることができなかった。

「野村さん、また暗い顔してますね」
からかうようにそう言われて、驚いて顔を上げると、
「沼田さん……」
眼鏡をかけた彼がそこに立ち、私を見て笑っていた。
「有給消化するんで今日が最後の出社なんです」
総務から何か書類をもらったんだろう、手にしていた紙袋を私に見せた。
「そうなんですか。もうすぐ和歌山へ帰るんですね」
「引っ越し準備に追われてそんな感慨もないですけどね」
「でも、すっきりした顔してますよ」
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