罪深く、私を奪って。
まだ地下鉄も動いてるし、わざわざ送ってもらわなくて大丈夫なのに……。
そんな私の考えなんてどうでもいいという様に、彼はさっさと運転席に乗り込んで車のエンジンをかける。
有無を言わせない彼の強引な態度に戸惑いながら、仕方なく助手席に乗り込んだ。

夜の街を走る静かな車内。
煙草と控え目な柑橘系のディフューザーの匂いがする、薄暗い空間。
聞こえるのは低くうなるエンジン音と、後部座席で眠る亜紀さんの規則的な寝息。
あとは、いつもよりちょっと早い自分の心臓の音だけで、なんだかやけに緊張していた。
な、なんか息苦しい……。
空気が重いって、こういう事を言うのかな。
『私、石井さんと亜紀さんが付き合ってたなんて知らなかったですー』とか。
『亜紀さんと付き合ったきっかけってなんなんですか?』とか。
世間話をしてこの間を繋ぎたいけれど、黙って運転する彼の横顔は、とても気安く声を掛けられる雰囲気じゃなくて。
早く家につかないかな……
彼との会話で空気を和ませるなんて難しそうな事は潔く諦め、ぼんやりと窓の外を流れていく景色を目で追いながら、この時間が早く過ぎることばかり願っていた。
時折すれ違う対向車のヘッドライトが、運転する石井さんの横顔を明るく照らす。
すっと通った鼻筋。
シャープな顎。
少し薄めの、綺麗な唇。
切れ長の目元を縁どる睫毛は意外なほど長くて、どこか物憂げな雰囲気だった。
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