罪深く、私を奪って。
大きめのハンドルを握る、筋のある男らしい手。
うっすらと血管の浮かぶ、逞しい腕。
隣に座る彼をこっそりと観察しながら、会社の女の子達が彼に憧れる理由がなんとなくだけど、わかる気がした。
人を寄せ付けないような冷たい雰囲気なのに、思わず見惚れてしまいそうになる。
無愛想な態度まで、彼の魅力のひとつに思える。
そんな彼が、あの太陽みたいに明るい亜紀さんと付き合ってるんだ……。
なんだか不思議な気分だった。

「次、交差点で左です」
必要最低限の会話を交わし、石井さんの運転する黒い車は、私の住むアパートの前に到着した。
「あ、ありがとうございました……」
シートベルトを外しながら石井さんに向かって頭を下げ、自分のバッグを手にした時、肝心な事を思い出した。
「あ……っ」
「どうした?」
「大変です! どうしよう。私、お店でお金払うの忘れてきちゃった!」
亜紀さんの荷物を持って彼を追いかけるのに必死で、すっかりお金の事なんて忘れていた。
真っ青になって慌てる私の様子を見て、石井さんが小さく笑った。
「慌てすぎ」
からかうような顔で、私の顔を見て目を細める。
「だって!」
「払っといた」
「え?」
「俺が払っといたから大丈夫」
いつの間に……?
目を丸くする私を見て肩を震わす石井さんは、運転していた時の冷たい横顔とは対照的で、そのギャップに思わずどきんとした。
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