罪深く、私を奪って。
携帯電話を出して時間を確認している私に、石井さんは冷たく言った。
「亜紀も来るなんて言ってないけど」
「嘘……、私亜紀さんも一緒だと思ったから来たのに」
騙された。
そう思った。
私の表情からその想いを感じ取ったのか、石井さんが不機嫌そうに軽く眉をよせた。
「俺、一言でも亜紀も一緒だって言ったか?」
「言ってないですけど、でも……」
でも、普通友達の彼氏と二人っきりで食事なんてしないじゃない。
だから亜紀さんも来ると思ったのに……。
「勝手に勘違いしたのはお前だろ」
石井さんは冷たくそう言って、グラスに入っていた琥珀色のビールを飲み干した。
俯いたまま黙り込んだ私に、石井さんが小さくつぶやいた。
「……イライラする」
ため息と共に、私へ向かって言葉を吐きだす。
「お前見てると、イライラする」
棘のある言葉に、昔の記憶が刺激されズキンと心臓のあたりが苦しくなった。
彼の言葉に傷ついているのに。
鼓膜を振るわせる、艶のある低い声。
その声に含まれた彼の苛立ちが、なぜかいやに魅惑的に響いて、全身がぞくりと粟立った。
「そんな泣きそうな顔するくらいなら、黙ってないでなんか言い返せば?」
「……泣きそうになんて」
なってないです。
そう言おうとして顔を上げると、視界が微かに滲んでいた。
きっと私の両目は誤魔化せないくらい潤んでる。
涙で歪む視界の中で、強気に笑う意地悪な男。
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