罪深く、私を奪って。
「まだそういう事言うなら、詩織ちゃんが逃げないように抱き上げたままで営業部まで行くけど?」
そんな恐ろしい事を、涼しい顔で平然と言う永瀬さん。
ごめんなさい。勘弁してください。
これ以上悪あがきをしても無駄だと悟った私は、大人しく永瀬さんの言葉に頷いた。

会社の裏にある社員用の駐車場。
車で通勤する人は多くないから、この時間でもあまりひと気はない。
薄暗くなりつつあるその場所で、私はなるべく人目につかないように周りを見回しながら永瀬さんを待っていた。
「詩織ちゃんお待たせー」
そんな私の気持ちになんてお構いなしに、よく通る声で私の名前を呼ぶ永瀬さん。
駐車場に響いたその声に、焦って永瀬さんに駆け寄った。
「な、永瀬さん! そんな大きな声で呼ばないでください!」
「そう? そんなに声でかかった? まぁとりあえず車乗ってよ」
周囲を気にしながらそう言った私の焦りを無視して、マイペースに自分の車の前へと案内する。
私の動揺に気づかないほど、周りの人の感情に対して無頓着なのか、それとも気付いていてわざと無視する確信犯なのか。
いつも笑顔で明るい永瀬さんが、実は相当な曲者だと勘付き始めた私は、鼻唄を歌いながら車のカギを開ける彼の背中を睨んだ。
「さ、乗って」
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