罪深く、私を奪って。
車から降りるため助手席のドアを開けようとすると、内側のドアの取っ手の場所が分からずに手が止まった。
「ああ。この車、内側の取っ手分かりづらいんだよね」
笑いながら、永瀬さんが運転席から体を伸ばし助手席のドアを開けてくれる。
その覆いかぶさるような密着した体勢に、思わずどきんとした。
ちょっと、距離が近すぎる。
早く開けてくれないかな……。
緊張が伝わらないように、息を殺しながらそう思っていると、永瀬さんが頭上でにやりと笑った。
「この車、はじめて乗る女の子はたいていドアの開け方わかんなくて、こういう体勢になるんだよね。このまま押し倒せると思わない?」
まるでキスでもするかのように覆いかぶさりながら、そんなふざけた事を言う。
「ちょっと、永瀬さん!」
「はは、冗談だってば。こんな狭い車の中で押し倒したって窮屈なだけじゃん。本気の時はもっと広い所で押し倒すから安心して」
「…………」
まったく。この人は本当に……。
永瀬さんにからかわれながらドアを開けてもらって、ようやく車から降りると、永瀬さんも運転席側から降りてきた。
「寒いから早く家入んな」
車の横に立ち、カチッと音をたてて煙草に火を付けながらそう言う。
寒いなら、永瀬さんわざわざ降りなくていいのに。
不思議に思いながら、車の横で煙草を吸う永瀬さんを見て首を傾げた。
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