罪深く、私を奪って。

「だ、大丈夫ですよ。小さい頃喘息持ちで煙草も動物の毛もダメだったんですけど、今はもうすっかり……」
動揺を隠すように、聞かれてない事まで勝手に言葉が出てくる。
その表情は反則だよ。
いつもは冷たいくせに、突然そんな優しい目で見られたらどうしていいかわからなくなるじゃない。
「ふーん」
私のくだらない話に石井さんは適当に相槌をうちながら、煙草に火をつけた。
ふわりと車内に漂う白い煙。
昨日の永瀬さんのそれとは少し違う匂い。
きっと煙草の種類が違うんだろうな。
煙草には詳しくないからよくわからないけど。
石井さんの燻らす煙草の香りに、喘息はもうすっかり良くなったはずなのになぜか少し息苦しくなった。
昨日の永瀬さんの煙草の匂いは、まったく平気だったのにな。
そう思いながら、運転する石井さんの横顔を眺めていると、
「どうした？」
石井さんが私を振り返り、少し目を細めた。
「な、なんでもないです」
慌てて顔を反らし、窓の外を見るフリをする。
冬が近づきすっかり薄暗くなった空。
そのお陰で車内も暗い。
きっと私の勝手に熱くなった頬も、石井さんには気付かれていないはず。
いつもは太陽が沈むのが日に日に早くなるのは憂鬱で仕方なかったのに、今日は早く沈んだ太陽に少しだけ感謝した。

私の住むアパートの前に着いた頃には、もう完全に陽は沈み外は真っ暗になっていた。
「ありがとうございました」