罪深く、私を奪って。
こんな短い距離で何かあるはずもないのに。
きっと過剰なほど心配性の永瀬さんが、無理やり石井さんに頼んだんだろう。
「そんな事まで頼むなんて、石井さんと永瀬さんって仲がいいんですね」
社内の女の子の人気を二分する二人。
でもまったく正反対の雰囲気を持つ二人がこんなに仲がいいなんて、少し意外だった。
「永瀬とは大学の時からの腐れ縁なんだよ」
まるで永瀬さんと仲がいい事が不満のように、少し顔をしかめてそう言う。
そっか、誰かが石井さんと亜紀さんが同じ大学だったって言ってたけど、永瀬さんも一緒だったんだっけ。
カンカンカン、と音が響くアパートの鉄骨の階段を上り、2階にある私の部屋の前まで来た。
ドアの前で立ち止まると、ここ? と言うように石井さんが私を見下ろす。
「ここです。ありがとうございました」
そう言って頭を下げた時、ドアの下の方についている郵便受けが目に入った。
あれ……?
それを見て、微かな違和感。
まるでわざと目立つように、郵便受けの間に挟まれた茶色の封筒。
いつも配達してくれる郵便局の人なら、こんなにはみ出すような乱暴な入れ方はしないのに。
半分以上外はみ出したその茶封筒は、風に吹かれるたびに微かに揺れていた。
私の表情に気づいたのか、石井さんがそれに手を伸ばした。
郵便受けの隙間から取り出されたシンプルな封筒。
そこには、宛名も差出人も書かれていなかった。
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