罪深く、私を奪って。

『もし仕事がつらいなら辞めて帰って来てもいいのよ？　一人暮らしも寂しいでしょう？』
まるで子供に話しかけるような、優しい口調で言われてしまった。
相変わらず過保護だなぁ。
なんて苦笑いをしてしまう。
優柔不断で憶病な一人娘と、過保護で優しい両親。
温かく居心地のよすぎるこの家にいたら、私はずっと何も自分で決められない人間のままになってしまう。
それじゃダメだ。
そう奮起して、通勤するには少し微妙な距離の会社に就職すると同時に、家を出て一人暮らしを始めたのに。
こんな風に精神的に弱っている時に、帰って来ていいのよなんて優しく言われたら、それもいいかなぁって、つい甘えたくなるじゃない。
「大丈夫だってば。私ももう大人なんだから」
私が明るくそう言うと、
『そう？』
なんて、少し残念そうに言うお母さん。
一人娘の私が家を出て、寂しいのかな。
たまには家に帰って顔を見せてあげなきゃ……と、少し反省。
『そう言えば、詩織。小学生の時に同級生だった、竹本くんって覚えてる？』
「え？　竹本くん？」
突然お母さんの口から出て来た名前に首を傾げた。
小学校の同級生。
その名前に聞き覚えがあるような、ないような……。
『あら、覚えてない？　６年生の時、詩織と同じクラスだったはずだけど』
「どうだったかな……」
一生懸命思い出そうと努力をしてみても、もう十年以上前の記憶は酷く朧げだ。