罪深く、私を奪って。
『その竹本くんのお母さんにこの前偶然会ったんだけどね、ぜんぜん彼女ができないんだって。このまま結婚しないんじゃないかしらって、竹本くんのお母さん心配してたわ』
「結婚って。そんな心配するのは早すぎるでしょ。私と同級生ならまだ24歳だよ?」
『でもほら、竹本くんの所は自営業みたいなものだから、早く結婚して家庭を持って病院を継いで欲しいみたいよ』
「自営業で、病院?」
マイペースなお母さんの会話についていけずに首を傾げた。
『竹本くんのおうち、個人の動物病院やってるじゃない。覚えてない?』
ああ、確かに。
おうちが動物病院の同級生がいた気がする……。
『竹本くんも大学卒業して獣医師免許とれたんだって。だから、うちの詩織をお嫁さん候補にどうかしら? って話しこんじゃった』
ちょっと待って。
なんで突然私がお嫁さん候補に?
話の展開にとてもついていけずに混乱する私を無視して、お母さんは楽しそうに話し続ける。
『だって、獣医さんの奥さんなら安泰そうじゃない? 転勤もリストラもないし。もし詩織が竹本くんのおうちにお嫁に行ってくれたら、ご近所だからお母さんもお父さんも嬉しいし』
「ちょっと、お母さん」
まるでいい事をした子供みたいに、自慢げにそう言ったお母さんにガックリと脱力。
『あら、ダメだった?』
「ダメって言うか。本人の意思を無視して、母親同士で盛り上がられても困るよ」
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