罪深く、私を奪って。
『本人の意思って、もしかして詩織。好きな人でもいるの?』
好きな人。
電話の向こうからの問いかけに、思わず言葉に詰まった。
私の意思を無視して、一瞬胸に浮かんだ顔を振り払う。
ありえない。
このタイミングで一番嫌いな人の顔を思い浮かべるなんて。
最近の私は少し情緒不安定かもしれない。
「……いないよ。好きな人なんて」
『じゃあいいじゃない! 竹本くんのお母さんと、今度二人をお見合いさせてみようかって話をしてるのよ。あ、お見合いって言ってもそんな堅苦しいのじゃなくて、ただホテルでランチが食べたいねって思いついただけなんだけど……』
楽しそうに話し続けるお母さんの声を聞きながら、私はゆっくりとため息をついた。



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