オオカミ男子の恩返し。
涙
(私って、ほんとダメだなぁ……)
和菓子屋をを続けられるかどうかが決まる、運命の日。
その日まで、あと一週間しかない。
みんなに助けてもらってやったSNSは、特に話題になることもなく、フォロワー数も友達や知り合いを入れて300人とか。
これじゃダメだと思って、チラシを配てみたけど、効果なし。
近所の人やクラスメイトが心配して買いに来てくれて、ちょっと売り上げがあがったけど、お店のピンチがどうにかなるような増え方じゃないし。
それに、お父さんとも成瀬とも一言も話さないまま。
成瀬なんて、あれ以来学校にも来なくなって、ぜんぜん会ってないし。
(私には、なにもできなかった)
夕方、家にいるのがつらくなって、「杏奈の家に行く」といって家を出てきたけど、杏奈は今日は英会話教室の日だ。
川沿いにある小さな公園のベンチに座って、ぼんやりしていると、ポツポツと雨が降ってきた。
そっか、雨がふりそうだから、だれも公園にいなかったんだ。
みんな、天気予報しっかり見ててえらいな。
私ってほんとダメだ。
夏の夕方なのに、どんよりくらくなって、雨の勢いが増す。
傘なんて、持ってないよ。
こんなに濡れたら、「杏奈の家に行く」っていうのがウソだったってバレちゃう。
ついてないなぁ、私。
顔が雨に濡れて、そうしたら、涙がぽろっとこぼれて。
そこからは、もう雨なのか涙なのわからない。
ひとしきり泣いて、そろそら帰らなきゃと思う。
思うけど、身体がうごかない。
そのとき、急に、雨が止まった。
「なにしてんだよ」
見上げると、黒い傘。
そして、その傘を私に差し出して雨に濡れる、成瀬。
冷たい目が私を見下ろす。
「成瀬……。なんでこんなところにいるの」
「お前こそ」
「私は……」
絞りだした声が、雨音に消える。
じっと私を見おろす成瀬。
その顔が雨に濡れて、傘を成瀬のほうに押し戻そうとした、そのとき。
「ウソでもいい。オレのことが好きだって言えよ」
成瀬がそういって、私の身体は固まる。
どういう意味?
成瀬の目は無表情で、感情が読みとれない。
「オレなら、今すぐお前も和菓子屋も救える。お前はもうなにもがんばる必要も、こんなとこで泣く必要もなくなる」
冷たい声。
「だから、ウソでもいいからオレのことが好きだっていえよ。お前のついたウソなら騙されてやってもいい」
雨足が強くなって、雨の音と成瀬の言葉が
私は首を横に振る。
「どうして」
「ウソはつけない」
小さな声で、でもハッキリそういうと、成瀬はフッと笑った。
「そんなにアイツがいいのか」
アイツって、雪平先輩のこと?
違う。
そうじゃない。
だけど、心が苦しくて、声が出なくて。
成瀬はそんな私をじっと見つめて、それから目を伏せた。
「……わかった」
傘を私の首と肩にかけるように置いて、びしょ濡れの背を向けて歩き出す成瀬。
「これっ」
傘を持って立ち上がる。
成瀬は振り返らず、待っていた黒い車に乗って去っていく。
ああ。
濡れた車が走り出して、体中の力が抜ける。
ひっひっとしゃくりあげて、どうしてこんなことになってしまったんだろうと思う。
頭に浮かぶのは、成瀬の顔。
初めて公園で会って、大福を食べたとき。
学校に現れた王子様モードのすました笑顔。
京都で、私の着物姿をみて「かわいい」って笑った顔。
私を背負ってくれたときの、後ろから見る頬。
あんなに近くにいたのに。
いっしょに笑ってたのに。
もう二度とあんな時間は戻ってこない。
でも、と私は涙をふいて鼻をすする。
でも、これでよかったんだ。
私は成瀬にはふさわしくない。
お金があるとか、顔がきれいとか、そういうことじゃなくて。
成瀬はほんとうにまっすぐで優しい、ステキな男の子だから。
私なんて、自分ががんばれないのを人のせいにしたり、お父さんを傷つけるようなことをいったり、「店を守る」とかいったくせになにもできなくて泣いてるだけで。
こんな私、やっぱり成瀬にはふさわしくない。
成瀬には、きっともっと素敵な女の子がお似合いだ。
雨は止む気配がない。
こんなに濡れちゃって、おばあちゃんになんていいわけしよう。
もうなにも考えたくなくて、私はぼんやりと雨を眺めた。
和菓子屋をを続けられるかどうかが決まる、運命の日。
その日まで、あと一週間しかない。
みんなに助けてもらってやったSNSは、特に話題になることもなく、フォロワー数も友達や知り合いを入れて300人とか。
これじゃダメだと思って、チラシを配てみたけど、効果なし。
近所の人やクラスメイトが心配して買いに来てくれて、ちょっと売り上げがあがったけど、お店のピンチがどうにかなるような増え方じゃないし。
それに、お父さんとも成瀬とも一言も話さないまま。
成瀬なんて、あれ以来学校にも来なくなって、ぜんぜん会ってないし。
(私には、なにもできなかった)
夕方、家にいるのがつらくなって、「杏奈の家に行く」といって家を出てきたけど、杏奈は今日は英会話教室の日だ。
川沿いにある小さな公園のベンチに座って、ぼんやりしていると、ポツポツと雨が降ってきた。
そっか、雨がふりそうだから、だれも公園にいなかったんだ。
みんな、天気予報しっかり見ててえらいな。
私ってほんとダメだ。
夏の夕方なのに、どんよりくらくなって、雨の勢いが増す。
傘なんて、持ってないよ。
こんなに濡れたら、「杏奈の家に行く」っていうのがウソだったってバレちゃう。
ついてないなぁ、私。
顔が雨に濡れて、そうしたら、涙がぽろっとこぼれて。
そこからは、もう雨なのか涙なのわからない。
ひとしきり泣いて、そろそら帰らなきゃと思う。
思うけど、身体がうごかない。
そのとき、急に、雨が止まった。
「なにしてんだよ」
見上げると、黒い傘。
そして、その傘を私に差し出して雨に濡れる、成瀬。
冷たい目が私を見下ろす。
「成瀬……。なんでこんなところにいるの」
「お前こそ」
「私は……」
絞りだした声が、雨音に消える。
じっと私を見おろす成瀬。
その顔が雨に濡れて、傘を成瀬のほうに押し戻そうとした、そのとき。
「ウソでもいい。オレのことが好きだって言えよ」
成瀬がそういって、私の身体は固まる。
どういう意味?
成瀬の目は無表情で、感情が読みとれない。
「オレなら、今すぐお前も和菓子屋も救える。お前はもうなにもがんばる必要も、こんなとこで泣く必要もなくなる」
冷たい声。
「だから、ウソでもいいからオレのことが好きだっていえよ。お前のついたウソなら騙されてやってもいい」
雨足が強くなって、雨の音と成瀬の言葉が
私は首を横に振る。
「どうして」
「ウソはつけない」
小さな声で、でもハッキリそういうと、成瀬はフッと笑った。
「そんなにアイツがいいのか」
アイツって、雪平先輩のこと?
違う。
そうじゃない。
だけど、心が苦しくて、声が出なくて。
成瀬はそんな私をじっと見つめて、それから目を伏せた。
「……わかった」
傘を私の首と肩にかけるように置いて、びしょ濡れの背を向けて歩き出す成瀬。
「これっ」
傘を持って立ち上がる。
成瀬は振り返らず、待っていた黒い車に乗って去っていく。
ああ。
濡れた車が走り出して、体中の力が抜ける。
ひっひっとしゃくりあげて、どうしてこんなことになってしまったんだろうと思う。
頭に浮かぶのは、成瀬の顔。
初めて公園で会って、大福を食べたとき。
学校に現れた王子様モードのすました笑顔。
京都で、私の着物姿をみて「かわいい」って笑った顔。
私を背負ってくれたときの、後ろから見る頬。
あんなに近くにいたのに。
いっしょに笑ってたのに。
もう二度とあんな時間は戻ってこない。
でも、と私は涙をふいて鼻をすする。
でも、これでよかったんだ。
私は成瀬にはふさわしくない。
お金があるとか、顔がきれいとか、そういうことじゃなくて。
成瀬はほんとうにまっすぐで優しい、ステキな男の子だから。
私なんて、自分ががんばれないのを人のせいにしたり、お父さんを傷つけるようなことをいったり、「店を守る」とかいったくせになにもできなくて泣いてるだけで。
こんな私、やっぱり成瀬にはふさわしくない。
成瀬には、きっともっと素敵な女の子がお似合いだ。
雨は止む気配がない。
こんなに濡れちゃって、おばあちゃんになんていいわけしよう。
もうなにも考えたくなくて、私はぼんやりと雨を眺めた。