榛名三兄弟は、学園の王子様(🚺)をお姫様にしたいみたいです。【マンガシナリオ】

第一話 王子様、再会する



〇朝・高校の正面玄関前にて

一年生女子「「藍沢せんぱーい!」」

コソコソしていた一年生女子数人が、意を決した様子で黄色い声で名前を呼ぶ。
視線の先には、黒髪ショートで綺麗な顔立ちをした二年生女子、藍沢凛子(あいざわりこ)がいる。名前を呼ばれた凛子は振り返る。

凛子「ん? どうしたの?」

凛子がニコリと微笑めば、名前を呼んでいた一年生女子たちは色めき立つ。
顔を赤くして目をハートにしたり、へなへなと座りこみそうになったりと、凛子に魅了されている。

一年女子A「藍沢先輩、今日もお美しい……」
一年女子B「今、わたしに笑いかけてくれたわ……!」
一年女子C「違う、私によ!」

凛子は反応に困り、困り顔で笑っている。
一年生女子がきゃあきゃあ盛り上がっていれば、そこに三年生の桃園撫子(ももぞのなでしこ)(金髪ロングの高飛車そうな美人)がやってくる。

撫子「ちょっとあなたたち! 凛子さんが困っているじゃない」
一年女子「も、桃園会長!」
撫子「凛子さんを困らせるなんて、あなたたち、それでも凛子さんファンクラブの一員なの!? もう少し節度のある行動を……」

ぷりぷりと怒っている撫子のそばに、凛子が近寄る。

凛子「わたしは大丈夫ですから。でも、心配してくれてありがとうございます、撫子先輩」
撫子「はぁうんっ……凛子さん、何てお優しいの……それに今日もお美しいわ……!」

凛子に微笑みかけられた撫子は、謎の声を上げながらふらりと倒れる。それを取り巻きの女子生徒が支えている。
いつものことなので、凛子は気にせずに先輩に一礼して、一人で校舎に入る。

凛子モノローグ【わたし、藍沢凛子。高校二年生。黒髪ショートの、どこにでもいる普通の女子高校生……だと、自分では思っているんだけど……。】

2-1と書かれたプレートのある教室の前。
立ち止まっていた凛子は、ふぅ、と小さなため息を吐き出して、教室の扉をガラリと開く。

「あ! 藍沢さんおはよう」
「窓から見てたよ。今日も見事な王子様っぷりだったねぇ」
「ほーんとカッコいい……マジ目の保養。藍沢さんと同じクラスでよかったぁ」

凛子はクラスメイトの女子たちに声をかけられる。

凛子「あはは。うん、おはよう」

クラスメイトたちに挨拶を返しながら、凛子は自分の席に向かう。

仁菜「人気者は大変ですなぁ」

凛子が自分の席につけば、前の席に座っていた茶髪ツインテールの少女、相田仁菜(あいだにな)がスマホでゲームをしながら振り向いて声をかけてくる。仁菜は凛子の一番の仲良しで、重度のゲーマー。

凛子「仁菜ちゃん、おはよ」
仁菜「りっちゃんおーっす。今日も見事なモテっぷりだったね」
凛子「……」
仁菜「イヤそうな顔すんのやめい。かぁいい女子たちに見られちゃうよ」

凛子モノ【――そう。なぜかわたしは、この学園で王子様的存在として、女の子たちにもてはやされているのだ。でもわたしは生物学上、歴とした女だし、ここが男子のいない女子高、というわけでもない。それなのに、どうしてわたしは“王子様”だなんて呼ばれ方をしているのだろうか……。】

クラスメイト女子「はぁ、サイアク。始業前に荷物運びとか……う、結構量もあるし……」

教材を持とうとしている女子生徒に気づいた凛子は、近づいて声をかける。

凛子「大丈夫? わたしも手伝うよ」(凛子の背後にキラキラエフェクトが見える)
クラスメイト女子「い、いいの? ありがとう……」

クラスメイト女子は、頬を赤く染めて凛子を恍惚とした顔で見つめている。

凛子「仁菜ちゃん、ちょっと行ってくるね」
仁菜「あーい。いってら~」

仁菜に声をかけた凛子は、クラスメイト女子よりも多い量の教材を軽々持ってしまう。

仁菜「あーあ。まーた自分からファン増やしちゃって。りっちゃんってば罪作りな女だなぁ。……でもあれ、りっちゃんは無意識でやってるんだもんねぇ」

仁菜は取りだした棒付きキャンディを舐めながら、教室を出ていく凛子たちの後ろ姿を見送っている。

教材運びを手伝いながら、凛子の幼少期の回想に入る。

凛子モノ【――子どもの頃からそうだった。わたしは腕っぷしもあったから、ケンカで男子に負けたこともない。女子に混ざってお絵描きをするよりも、男子と一緒に外を駆け回る方が好きな子どもだった】

→凛子の幼い頃の描写を何コマか描く。

【中学時代は、子どもの頃から習っていた剣道を続けていたから、部活一色の生活を送っていたんだよね。だから高校生になったら、もっと女の子らしく、お淑やかになりたいなって思ってたんだ。だけど……高校デビューは見事に失敗にして、“男勝りなガサツ女”から、気づけば“学園の王子様”にシフトチェンジしていたんだよね。……だけど、わたしだって本当は……】

→凛子は教材を持って廊下を歩きながら、少し切なそうな目で、窓の外を見つめる。そこには仲睦まじそうに登校してきたカップルらしき男女二人組がいる。女の子はふわふわした長い髪で、いかにも女の子っていう可愛らしい雰囲気。

クラスメイト女子「藍沢さん、手伝ってくれて本当にありがとう!」
凛子「ううん、大したことはしてないから」
クラスメイト女子「あの、でも、本当に助かったから、お礼がしたいっていうか……よければ今度一緒に……」

教材を運び終わり、凛子とクラスメイト女子が話しながら教室に戻っていれば、凛子たちのクラスがざわついていることに気づく。二人の会話が途切れる。

クラスメイト女子「……あれ、ウチのクラスだよね?」
凛子「何かあったのかな」

二人が教室の中を覗き込めば、主に女子生徒たちが、きゃあきゃあ色めき立っている。
クラスに、見知らぬ目立つイケメン男子生徒が三人いる。
凛子は、その内の一人の金髪の美男子とばっちり目が合う。
かと思えば、気づけば男子生徒が凛子のすぐ目の前にいて、抱きつかれる。

叶羽「りっちゃん、会いたかった」
凛子「……え?」

一瞬静まり返っていた教室が、再び騒がしくなる。

「えっ、藍沢さんの知り合い!?」
「どういう関係なの!?」
「というか学園の王子とイケメンの抱擁とか、需要しかないんだけど……!?」

色々な意味で騒めき立っている教室内。
そこに、他のイケメン二人も近づいてくる。

千紘「叶羽ばっかり、ズルい」
政宗「りっちゃんさぁ、まさかオレらのことを忘れてるわけねーよな?」

千紘は白髪で肩くらいまでの長さの髪をハーフアップにしている。
政宗は青色の短髪。

凛子は三人の顔を順に見ているうちに、幼少期の記憶をぼんやりと思い出し始める。

叶羽「ねぇりっちゃん。あの時の約束、覚えてる?」

叶羽は少しだけ不安そうな顔で眉を下げて、凛子の目を真っ直ぐに見つめてくる。
目の前の叶羽の姿が、小さい頃の叶羽の姿と重なって見える。

クラスメイト女子「あ、あの。藍沢さんと一体どういう関係なんですか……?」

凛子と教材を運んでいたクラスメイト女子が恐る恐る尋ねれば、叶羽は外行きの顔でニコリと笑う。

叶羽「俺たちは、りっちゃんの幼馴染なんだ。りっちゃんの王子様になるために戻ってきたんだよ」
クラスメイト女子「お、王子様? 王子様は藍沢さんでは……?」

困惑するクラスメイト女子に、政宗と千紘も話しかける。

政宗「約束してたんだよ。強くてカッコいい男になったら、りっちゃんのことを迎えに行くってな」
千紘「りっちゃんは、おれたちのお姫様だから」
叶羽「そういうこと」

叶羽は凛子の髪に、千紘は凛子の頬に、政宗は凛子の手の指先に、それぞれキスをする。

「「っ、きゃ~っっ!!!!」」

収拾がつかないほど騒がしくなったクラスメイト達の叫び声を聞きながら、凛子は、幼い頃の榛名三兄弟の姿や共に過ごした記憶を思い出す。

凛子モノ【……そうだ、思い出した。「りっちゃん、りっちゃん」っていつもわたしの後をついて回っていた、三人の泣き虫な男の子。――榛名三兄弟(はるなさんきょうだい)

→幼い頃、凛子の後ろを付いて回っていた榛名三兄弟の姿を描き、そこから現在目の前にいる大人びた三人の姿を映す。
そして、幼い頃との変わりように凛子は困惑する。

叶羽「りっちゃん」
叶羽・千紘・政宗「「これからよろしく(ね/な)」」
凛子「あ、うん? よろしくね……?」


――こうして、学園の王子様(🚺)は、突然あらわれた三人の王子様との再会によって、運命を大きく変えられることになるのです。

< 1 / 6 >

この作品をシェア

pagetop