榛名三兄弟は、学園の王子様(🚺)をお姫様にしたいみたいです。【マンガシナリオ】
第二話 王子様、思い出す
〇凛子、幼少期の回想
――あれは、わたしが小学二年生だった時。
校庭の桜の木は、きれいな桃色に色づいている。そんな、うららかな春の日のことだった。
一学級ニクラスしかないので、半数が昨年と同じクラスメイトの中、わたしたちのクラスに三人の転校生がやってきた。
叶羽「は、榛名叶羽です」
千紘「……榛名、千紘」
政宗「……」
担任「彼は榛名政宗くんね。三人は引っ越してきたばかりでまだ慣れていないことも多いだろうから、みんな、色々と教えてあげてね」
二年一組に転校してきた榛名三兄弟は、きれいで可愛らしい顔立ちをしていた。
クラスの女子たちは口々に「カッコいいよね!」などと耳打ちし合っている。
朝のホームルームが終われば、三人の周りには一斉に女子が集まり、質問タイムが始まる。
凛子モノ【きれいで可愛らしい顔立ちをしていた榛名三兄弟に、クラスの女の子たちは嬉しそうに声をかけていた。これならクラスにもすぐに馴染めるだろうなって、そう思っていたんだけど……。】
クラスメイト男子「何だよ、あいつら。調子にのってるよな」
凛子モノ【――ちやほやされている三人のことが気に入らないと思う男子たちは、多いみたいで。】
〇放課後・中庭
凛子のクラスメイトの男子たち数人は、座りこんでいる榛名三兄弟を囲むようにして立ち、意地悪を言っている。
叶羽「うぅ、やめてよ……」
男子A(渡辺/高校編で登場予定)「イヤだね! だって泣き虫なのはほんとじゃんか! それにおまえら、そんな変な髪の色して、調子にのってるんだろ!」
男子B「そうだそうだ!」
叶羽「こ、これは生まれつきの髪だよ……!」
渡辺「変な色~。似合ってねぇんだよ!」
黒や茶色の頭髪の中にまぎれているのは、まぶしい金色の髪に、白っぽい髪に、青色の髪。
奇抜に思えるその色は、遠目から見てもすぐに分かるし、よく目立っている。
凛子は男子の集団に近づいて声をかける。
凛子「アンタたち、またやってるわけ?」
渡辺「げっ、藍沢がきたぞ!」
凛子が声をかければ、男子たちは皆そろってイヤそうに顔をしかめる。
凛子「寄ってたかってイジワル言うなんて……アンタたち、ほんとにカッコ悪いよ」
渡辺「なっ……う、うるせぇんだよ! コイツらが変だから、変って教えてやってただけじゃんか!」
男子C「そうだそうだ! 女は黙ってろよな!」
凛子「……はぁ?」
低い声を漏らした凛子が目の前の男子たちをギロリと睨めば、男子たちは肩をびくつかせる。
凛子「……渡辺のその服って、元々は女の子のブランドの服だよね? 男の子の渡辺には、あんまり似合ってないんじゃないの?」
渡辺「は、はぁ? これは母ちゃんが買ってきただけで、おれが選んだわけじゃねーし! それに女物だなんて知らねーよ!」
凛子「そうなんだ。でもさ、榛名くんたちだって言ってるじゃん。髪の色は生まれつきだって。榛名くんたちが自分で選んで、髪の色を変えてるわけじゃないんだよ。それに渡辺、今わたしに似合ってないって言われて、イヤな気持ちになったでしょ?」
渡辺「そ、それは……」
凛子「自分がされたら、言われたら、どんな気持ちになるか。もう少しよく考えてみなよ」
渡辺「っ、……うるせーよ! もう行こうぜ!」
男子たちは気まずそうな顔をしながらも、そろってこの場を後にする。
凛子「あ、渡辺!」
渡辺「……何だよ」
凛子「似合ってないなんて言ってごめんね。わたしはその服、けっこう好き。似合ってるよ」
渡辺「……そうかよ!」
凛子の呼びかけに立ち止まった渡辺は、背を向けたまま大きな声で応答して、ズンズンと歩いて行ってしまう。よく見るとその耳は赤く染まっているが、凛子は気づかない。
凛子「三人とも、大丈夫?」
凛子は、地面に座りこんだままの榛名三兄弟のもとに近づく。
榛名三兄弟の服は土がついて汚れているし、頬には涙のあとがある。
凛子は服についた土汚れを手ではらってあげる。
叶羽「り、りっちゃん、あの……」
凛子「ん? どうしたの?」
叶羽「ご、ごめんなさい。僕たちのせいで、りっちゃんまで、イヤなこと言われて……」
千紘「う、ごめんなさい……」
政宗「……ごめん」
三人は頭を下げて謝りながら、大粒の涙をぽろぽろ零している。
凛子「もー、泣かないでよ。そんなに泣いたら、きれいな目が真っ赤になっちゃうでしょ」
叶羽「う、だって……」
凛子「だいじょうぶだよ。わたしは、大勢でしかイジワル言えないような意気地な人たちの言うことなんて、なーんにも気にしてないんだから!」
凛子はピースサインを作って二ッと笑う。
榛名三兄弟は目をぱちぱち瞬いてから、へにゃりと笑う。
叶羽「……りっちゃんは、強いね。僕たちは弱虫だし、すぐ泣いちゃうし……男の子なのに、恥ずかしいな」
凛子「そう? 強いに男とか女とか、関係ないと思うけど……」
政宗「でも、男は女の子を守らなきゃダメだって……前に聞いた」
千紘「ぼくも、りっちゃんみたいに……強くなりたい」
凛子「それじゃあ、これから強くなればいいよ」
俯いていた榛名三兄弟は、凛子の言葉に顔を上げる。
凛子「強くなりたいって思うなら、これから頑張ればいい話でしょ?」
千紘「で、でも……なれるかな? それにぼくたち、変な髪の色、してるし……」
凛子「えぇ? わたしは変だなんて思わないけど……榛名くんたちの髪色、おとぎ話やマンガに出てくる王子様みたいにキラキラしてるし、きれいでかっこいいよ」
千紘「ほ、本当に?」
叶羽「僕たちが、王子様みたい……?」
榛名三兄弟は、凛子の言葉にきょとんとしていたかと思えば、頬を薄っすら赤くして目を輝かせる。
叶羽「それじゃあ、りっちゃんはお姫様だね!」
凛子「え、お姫様? ……わたしが?」
今度は凛子がきょとんとした顔をする。しかしすぐに、困り顔で笑う。
凛子「……それは、無理かなぁ」
千紘「え、どうして?」
凛子「だってわたし、男の子たちより強いもん。この前のクラスの腕相撲大会でも、男子たちみんな倒して優勝しちゃったし。それによく男勝りとかガサツとか言われるし……だから、わたしみたいなのがお姫様になるのは無理だと思うなぁ」
政宗「それじゃあ、オレたちが、りっちゃんより強くなればいいのか?」
凛子「え?」
叶羽「……うん。政宗の言う通りだね。僕たちが、りっちゃんより強くてカッコいい男になれば、りっちゃんはお姫様になれるってことでしょ?」
凛子「そ……ういうことになるの、かな……?」
叶羽「うん、そういうことだよ!」
政宗「よっし、見てろよりっちゃん! オレたち、ぜってーりっちゃんより強くなってみせるからな!」
千紘「ぼくも、頑張る」
凛子モノ【――三人とそんな会話をした、四か月後。榛名三兄弟は、お父さんの仕事の都合で、遠くへ引っ越してしまうことになった。】
お別れの時。
もう泣かないって言っていたのに、榛名三兄弟はやっぱり泣いている。
必死に涙をこらえようとしている千紘が可愛くて、凛子はその白い髪をそっと撫でてあげる。
すると他の二人が「ずるい!」と言い、凛子は叶羽と政宗の頭も順に撫でてあげる。
叶羽「強くてカッコいい男になったら、絶対に、りっちゃんのこと迎えに行くから」
千紘「……それまで、待ってて」
政宗「約束、忘れるんじゃねーぞ」
凛子「……うん、分かった。待ってるね」
凛子モノ【そんな約束をして、三人は遠くへ引っ越していった。同い年の男の子だけど、三人のことは、わたしが守ってあげなくちゃって思ってた。わたしは一人っ子だったけど、勝手に弟みたいに思ってもいた。榛名三兄弟はわたしにとって、どこか目が離せない、可愛い存在だったんだよね。――あれから、七年もの月日が流れた。榛名三兄弟のことは、少しずつ、過去の懐かしい思い出になっていって。もう思い出すこともそうそうなくなっていたのに。それなのに……どうして今、三人のことを、ここまで鮮明に思い出しているのかといえば……。】
〇朝のHR・一話のその後
叶羽「榛名叶羽です」
千紘「榛名千紘」
政宗「榛名政宗」
担任「転校生だ。お前ら、仲良くしろよ~」
榛名三兄弟は、教壇の前で自己紹介をする。
それを凛子は自分の席に座って見つめている。
クラスメイト男子「というか、転校生三人ともウチのクラスなんすか?」
男子生徒が尋ねれば、担任は困った顔で口を開く。
担任「それがなぁ……元々千紘は隣のクラスになる予定だったんだが、同じクラスじゃなきゃヤダって渋ってな……もう一人二人増えたところで変わらんってことで、まとめてウチのクラスになったんだよ」
クラスの視線を集めても、千紘は何食わぬ顔でスンッとしている。
担任「それじゃあ席は……後ろの窓際の席な」
ついさっき用意した机といすは、窓際後方に座る凛子の隣と、その後ろに置いてある。
叶羽「りっちゃんと同じクラスで、しかも席まで隣同士だなんて、これって運命だよね」
凛子の隣の席に腰掛けた叶羽は、凛子の顔を覗き込んでとろけるような甘い笑みを浮かべる。
政宗「クッソ……あの時グーを出しておけば……」
千紘「はぁ、サイアク……」
凛子の後ろの席の政宗と、叶羽の後ろの席に座った千紘は、ぶつぶつ文句を言っている。
クラスメイト女子A「ねぇ、結局さ、藍沢さんと転校生たちってどういう関係なんだろうね?」
クラスメイト女子B「お姫様とか言ってたし、もしかして許嫁とか?」
クラスメイト女子A「えー、何それ漫画みたい!」
クラスメイトたちがひそひそ囁き合っているのを聞きながら、凛子はズキズ痛む頭を抱えるようにしてため息を吐き出す。
凛子「……榛名くんたち。あとで話があるんだけど、いいかな?」
叶羽「うん、もちろんだよ。というか榛名くんだなんてそんな他人行儀な呼び方止めてよ。叶羽って呼んでほしいな」
にこにこと嬉しそうに笑っている叶羽をチラリと見て、凛子は再びため息をはき出す。
(わたしの学園生活、これからどうなっちゃうんだろう……)
そんな凛子に、榛名三兄弟がそれぞれ熱視線を送っている描写で終わる。