榛名三兄弟は、学園の王子様(🚺)をお姫様にしたいみたいです。【マンガシナリオ】
第四話 王子様、お邪魔する
〇学校帰り・榛名三兄弟の家
凛子「……お邪魔しま~す」
叶羽「どうぞ。ゆっくりしていってね」
凛子モノ【あの後、両手を掴まれカバンは人質にとられ、ほぼ強制的に連行されることになったわたしは、榛名三兄弟の家に遊びにきていた】
凛子「お家の方はいないの?」
千紘「父さんは仕事で帰りが遅いし、母さんは多分、買い物かな」
叶羽に先導されて階段を上がり、一番近くにあった部屋に通される。
叶羽「とりあえず、今日は俺の部屋にどうぞ」
凛子「(今日は?)うん、それじゃあ、失礼します」
叶羽「俺、飲み物をとってくるから。適当に座って待ってて」
千紘「おれも手伝う。……政宗、大人しくしててよ」
政宗「わぁってるよ。そんなに睨むなって」
通されたのは叶羽の部屋。
凛子は室内を見渡す。綺麗に整理された大人っぽい部屋。
棚の上に写真が飾ってあって、そこには幼少期の凛子と榛名三兄弟が写っている。
凛子「これって……」
政宗「覚えてるか?」
凛子「っ、びっくりしたぁ」
政宗が背後から耳元で声をかけてきて、凛子は驚く。
政宗は悪戯っ子の顔で笑っている。
凛子「これ、皆が引っ越していっちゃう時に撮った写真だよね」
政宗「あぁ。オレはあん時……弱虫のガキで、いっつもりっちゃんに助けてもらってた。思い出すだけでもマジで情けなくなるわ」
凛子「あはは、そうだったね。でも政宗くん、すっごくカッコよくなったもんね」
政宗「……そう思うか?」
真面目な顔をした政宗が、距離を詰めてくる。
空気が変わったことを感じて、凛子は一歩後退る。
凛子「あ、あの、政宗くん?」
政宗「なぁ、オレさ、本気なんだよ。本気でりっちゃんのことが……」
叶羽「はーい、そこまで」
そこに、お盆に飲み物やお菓子をのせた叶羽が戻ってくる。
後ろには千紘もいる。
千紘「おれらがいない隙を狙って、りっちゃんのこと襲おうとするとか……政宗最低。このクズ野郎」
政宗「別に襲おうとなんてしてねーよ!」
千紘は蔑むような目で政宗を非難する。
政宗は否定するが、千紘は物凄く怖い目をしながら凛子を守るようにして立ち、政宗を威嚇。
凛子は空笑いしながら、視線を棚の方に移す。そこに、置きっぱなしになっているゲームソフトがあることに気づく。
凛子「これって、叶羽くんの?」
叶羽「あぁ、それは政宗が置いていったやつだよ。俺はそんなにゲームはしないんだけど……せっかくだし、皆でゲームでもする?」
政宗「お、いいじゃん。それじゃあ負けたやつは罰ゲームで、勝ったやつの言うこと何でも聞くってことにしようぜ」
政宗はニヤリと笑いながら凛子を見つめる。
千紘「はぁ? そんなの一番やりこんでる政宗が有利に決まってるだろ」
政宗「それじゃあ、オレがハンデ付けるってことでいいだろ? それなら……」
凛子「いいよ、やろうか」
凛子は政宗の声を遮るようにして言う。
凛子「ハンデもなしでも、わたしは構わないよ」
政宗「お、りっちゃんやる気満々じゃん」
叶羽「りっちゃん、こう見えて政宗ってかなりゲームが強いから、ハンデはありにしてもいいと思うよ?」
政宗「こう見えてってどういうことだよ」
愉しそうに笑っている政宗に反して、叶羽は心配そうな顔で、千紘は政宗に対して不満そうな顔をしている。
凛子「ふふ、大丈夫だよ」
凛子モノ【政宗くんの余裕そうな表情を見るに、相当ゲームが得意なんだろう。でも――】
凛子「わたし、負ける気はないからね」
置いてあったゲームソフトを手にした凛子は、二ッと勝気な笑みを浮かべる。
〇場面は変わり、ゲームをやり終えた後
叶羽「――りっちゃん、強すぎない?」
政宗「クッソ……! なぁ、もう一回やらねぇ?」
スマブラ対決は凛子の圧勝。
叶羽は尊敬のまなざしを向け、政宗は悔しそう。千紘はゲームに興味はない様子で、凛子の隣にべったりくっついている。
そこに、部屋の扉をノックする音が聞こえてくる。
榛名母「入るわよ? 今日はめずらしくお友達がきてるの? って、あら!」
凛子を見て、榛名母は口許に手を当てながら嬉しそうな声を上げる。
榛名母は四十代前半だが、年齢よりも若々しく見えて綺麗な容姿をしている。
榛名母「凛子ちゃんじゃない! 久しぶりねぇ。元気だった?」
凛子「はい! 榛名ママもお元気そうでよかったです」
凛子モノ【彼女は、榛名三兄弟のお母さんである榛名咲子さん。わたしは榛名ママって呼ばせてもらってる。小学生の時から家に遊びに行くことも多かったから、榛名ママとおしゃべりすることもよくあったんだよね。いつ見ても綺麗だし、あの頃から全然変わってないなぁ】
榛名母「凛子ちゃん、せっかくだし今日はこのままお夕飯食べていない?」
凛子「え? でも、さすがにそれは悪いですし……」
政宗「いいじゃん。食べていけよ」
叶羽「帰りは俺が送っていくから心配しなくていいし」
千紘「おれたちが、ね」
凛子「う、それじゃあ、お言葉に甘えて……」
榛名母「ふふ、よかったわ。それじゃあ急いで準備するから、もう少し待っててね」
凛子「あ、それじゃあわたしも手伝います!」
榛名母「あら、いいの? ありがとう」
凛子は料理を手伝うと言い、榛名母と二人で一階に下りていく。
叶羽「……え、もしかしてりっちゃんの手料理を食べられるってこと?」
政宗「よっしゃ。母さんナイス」
千紘「りっちゃんの手料理……」
取り残された榛名三兄弟は、好きな子の手料理を食べられることに気づいて、各々嬉しそうにしている。
〇榛名三兄弟の家・ダイニングテーブルの前にて
凛子「あの、これはその……」
凛子は気まずそうな顔で目線を彷徨わせている。
榛名三兄弟が視線をテーブルの上に下げれば、大皿には綺麗な楕円型のハンバーグと、歪な形をした少し焦げたハンバーグが盛り付けられている。
凛子「ごめん、全然上手く作れなくて……だから三人は、榛名ママの作った方を食べてくれる? わたしが自分で作った分を食べるから……」
落ち込んでいた凛子がそろりと顔を持ち上げれば、何故かフォークを手にした三人が牽制し合っている。
千紘「りっちゃんの作ったハンバーグはおれが全部食べるから。二人は母さんのを食べればいいんじゃない?」
叶羽「その言葉、そっくりそのまま二人に返すよ」
政宗「千紘、オマエ、オレの足踏んでる! わざとだろ!」
千紘「さぁ? 気のせいじゃない?」
言い争っている三人をぽかんと見つめていれば、榛名母がクスクス笑いながらキッチンから歩いてくる。麦茶の入ったグラスを手渡してくれるので、凛子はお礼を言って受け取る。
榛名母「ふふ、この子たちったら、あの頃からずっと凛子ちゃんのことが大好きなのよね」
凛子「そう、なんですかね……?」
榛名母「あ、そうだわ。――凛子ちゃんがお嫁さんにきてくれるの、私は大歓迎だからね!」
凛子「っ、ごほ」
麦茶を飲んでいた凛子は、驚いてむせてしまう。
榛名母は「あらあら」と笑いながら、凛子の背中をさすってくれる。
榛名母「私、女の子もほしかったのよねぇ」
凛子は何と言葉を返したらいいのか分からず、曖昧な笑みを浮かべる。
凛子モノ【結局、わたしが作った少し焦げたハンバーグは、三人で分けて綺麗に完食してくれた。形だって歪だし、少し焦げてしまったのに、三人は本当に嬉しそうに「今まで食べたハンバーグで一番おいしい!」なんて言って笑ってくれたんだ。でも、どうせならもっと美味しいハンバーグを食べてもらいたかったなぁ。……明日から、料理の練習、始めてみようかな】