榛名三兄弟は、学園の王子様(🚺)をお姫様にしたいみたいです。【マンガシナリオ】
第三話 王子様、振り回される
〇お昼休み・屋上に続くひと気のない踊り場にて
授業が終わってすぐ、凛子と榛名三兄弟はクラスメイトに囲まれていたが、その場から何とか抜け出してひと気のないこの場所までやってきた。
凛子「えーっと、とりあえず……改めて、三人とも久しぶりだね」
凛子の言葉に、叶羽はニコリと笑い、千紘はコクリと頷き、政宗はひらひらと片手を振る。
凛子「でも、まさか同じ高校に転校してくるなんて……すっごい偶然だよね」
千紘「偶然じゃないけど」
凛子「……え?」
政宗「言っただろ? 強い男になったら会いに行くって」
凛子モノ【つ、つまり三人は、どうやって調べたのかは知らないけど、わたしの進学先を突き止めてわざわざこの高校に転校してきたってこと……?】
凛子は呆然とした表情。
そんな凛子の頬を、政宗がするりと怪しい手つきで撫でる。
政宗「りっちゃんは、あの頃と全然変わらねぇな。いや、ますます可愛くなったか?」
政宗は至近距離で凛子の目を見つめてくる。
何が起こったか分からず凛子が固まっていれば、叶羽と千紘によって政宗は引き離される。
千紘「政宗、抜け駆け禁止」
叶羽「りっちゃんがびっくりしてるだろ。ダメだよ、りっちゃんのこと困らせちゃ」
政宗「いやいや、そういうオマエこそ、さっきまでりっちゃんにべたべたしてただろ。つーか隣の席勝ち取ったやつに言われたくねーんだけど」
千紘「それはそう」
叶羽「まぁ、俺とりっちゃんは結ばれる運命ってことだからね」
政宗「はぁ?」
千紘「何言ってるの? 頭沸いてるわけ?」
言い合いを始めてしまった三人を呆気にとられた表情で見つめていた凛子は、ハッとして声を上げる。
凛子「……と、とりあえず! こうしてまた会えたのは嬉しいけど……校内でさっきみたいにくっついてきたりするのは止めてね」
政宗「は? 嫌だけど」
凛子の言葉を、政宗は秒で否定。
叶羽と千紘も続けて否定の声を上げる。
叶羽「それは無理かなぁ。だって俺たち、りっちゃん大好きだから」
千紘「何でくっつくのがだめなわけ? そんなの無理に決まってる」
凛子「え? ……いやいや、何でって、常識的に考えて、年頃の男女がべたべたしてたら勘違いされちゃうでしょ? そもそもそういう触れ合いは、好きな人同士がやることであって……」
千紘「好きだけど」
真面目な顔をした千紘が、凛子を真っ直ぐ見つめてくる。
凛子は息をのむ。
千紘「おれたちはりっちゃんのこと、好き。りっちゃんはおれたちのこと、好きじゃないの?」
凛子「え、いや……好きだけど、私が言う好きは、幼馴染としての好きって意味で……」
叶羽「それじゃあ俺たち相思相愛だ! 何の問題もないね」
凛子の言葉を遮るようにして口を開いた叶羽が、凛子の腕にくっついてくる。
政宗「だぁいじょうぶだって。今は違くても、りっちゃんは俺のこと、そういう感情ですぐ好きになるからさ」
千紘「だから政宗、抜け駆け禁止」
またやんやと言い合いを始めてしまった三人の側で、凛子はぶるぶる震える。
凛子モノ【な、何なのこいつら……全然人の話聞いてくれないし! あの頃の可愛かった三人は、一体どこにいっちゃったわけ……!?】
→凛子の脳内の幼い頃の可愛い三人の姿に、ぴしぴしとヒビが入り崩れていく描写。
凛子「と、とにかく! わたしは平穏な学校生活を送りたいの! だから目立つようなことは控えてね!」
凛子はそう言いきって、一人で背を向け教室に戻っていく。
政宗「……平穏な学校生活、ねぇ」
三人は凛子の背中を目で追っている。
凛子が、曲がり角から現れてぶつかりそうになった女子生徒の腰を支えている。その女子生徒は頬を赤らめて凛子にお礼を言っている。
千紘「でもりっちゃんって、おれたちがくるまえから目立つ存在だったんじゃないの?」
叶羽「そういう無自覚なところも可愛いよね」
〇授業終わりの放課後・教室にて
凛子「はぁ」
仁菜「りっちゃんお疲れじゃん。ほれ、飴ちゃん食べるかい?」
凛子の前の席に座る仁菜が飴玉を差し出してくれる。
凛子「仁菜ちゃん、ありがとう……」
飴を受け取った凛子の耳に、女子たちの黄色い声が届く。
女子生徒A「えぇ、政宗くんって読モやってたことがあるの!?」
女子生徒B「千紘くんって、すっごく綺麗な肌だよねぇ。ケアとか何してるのか教えてほしいなぁ」
女子生徒C「叶羽くんって彼女はいるの? わたし、立候補しちゃおっかなぁ」
教室の後方にいる榛名三兄弟は、クラスメイトから他クラスの女子にまで話しかけられている。
囲まれている三人を、凛子と仁菜はチラリと見つめる。
仁菜「おーおー、すごい人気だねぇ」
凛子「だね」
仁菜「まぁ彼らがりっちゃんの幼馴染として転校してきてくれたのは、自分としては美味しい展開だけどねぇ」
凛子「え、どういうこと?」
仁菜「いやぁ、だってイケメン王子と囁かれてるりっちゃんの幼馴染として現れたタイプの違うイケメン三人とか、乙女ゲーをやり込んでいた時期もある自分からしたらリアルでスチルを回収できるかもしれないめちゃくちゃ熱い展開だなぁと思いましてね」
凛子「何それ」
オタク特有の超絶早口で話す仁菜を、凛子が呆れた顔をしながら笑っていれば、クラスの男子(実は凛子に気がある)が話しかけてくる。
男子生徒「藍沢さぁ、学園の王子の座、アイツらにとられちまうんじゃねーの?」
凛子「いや、別に王子の座とかいらないんだけど……」
男子生徒「まぁさ、元気出せって! 景気づけにさ、帰りにどっか食べに行かねぇ?」
男子生徒が凛子の頭に触れる直前に、千紘がやってきて男子生徒の手首をつかむ。
千紘「気安く触んないでくれる?」
男子生徒「は? 何すんだよ……って、いててて! は、離せって!」
痛そうに顔を顰めている男子生徒を見て、凛子が止めに入る。
凛子「ちょ、ちょっと千紘くん! 離してあげて」
千紘は、凛子の言うことにはすぐに従って手を離す。
そして、凛子の顔をジッと見つめてくる。
千紘「……呼んでくれた」
凛子「え?」
千紘「おれの名前。やっと呼んでくれた」
ずっと無表情だった千紘が、うれしそうに微笑む。
その表情を真正面から見た凛子は、ドキリとしてしまう。
凛子(び、びっくりした……)
そこに叶羽と政宗も戻ってくる。
叶羽「お待たせ。それじゃあ、行こうか」
凛子「いや、別に待ってはいないんだけど……っていうか、この手は何ですか?」
叶羽が凛子の手を恋人繋ぎで握りしめている。
政宗は凛子のカバンを持つ。
政宗「相田さん、だっけ? りっちゃん借りてくなぁ」
仁菜「あー、はい。どぞどぞ」
凛子「って、仁菜ちゃん!?」
仁菜「りっちゃん達者でな~」
仁菜に手を振り送り出される。
榛名三兄弟に囲まれた凛子は、強制的にどこかに連れていかれる流れに。
凛子「……というか、行くってどこに行くわけ?」
叶羽「もちろん、」
榛名三兄弟「「俺(おれ/オレ)たちの家に(だよ)」」
凛子「……はい?」
凛子はきょとん顔。
会話を盗み聞きしていた一部のクラスメイト女子たちは「きゃー!」「お家ですって!」と黄色い声を上げている。
凛子「あの、それってわたしに拒否権は……」
叶羽「うーん」
榛名三兄弟「「ない(かな/だろ)」」
凛子は顔を引き攣らせる。
凛子モノ【どうやら、再会の感傷に浸っているひまもなく、出会って早々、わたしは自分勝手な幼馴染たちに振り回されることになるみたいです】
そして凛子に絡んでいた男子生徒は、帰っていく凛子たちの背中を見つめながら、仁菜のそばで佇んでいる。
男子生徒「あのぉ……俺ってもしかして、忘れられてる……?」
仁菜「どんまい」
仁菜に肩を叩かれて、男子生徒はがっくりと項垂れる。